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ロースクールたより12月号

 

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こんにちは。

今年も1週間ほどになりました。ロースクールの講義も終わり冬休みに突入しましたが、私はいつも通り自習室に籠って問題集を解いたり答案を書いたりラノベを読んだりしています

自習室にひきこもるのが得意なフレンズ

 

 

今回は司法試験の選択科目について書こうと思いますが、選択科目の概略的なものは本家ロースクールだよりで既にやっていること(何年の何月号かは忘れましたが)、私自身租税法しか詳しく語れない(他にローで履修したのは労働法のみ)ので、租税法に絞って書きます

 

 

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1.租税法とは何ぞや?

租税法:租税に関する法規の総称。国税通則法国税徴収法国税犯則取締法所得税法法人税法相続税法酒税法地方税法などがある。税法。*1

以上。

 

 

 

 

 

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もう少し真面目に説明します。

憲法上規定されている国民の義務の一つに、納税の義務(30条)があります。 

この納税の義務ですが、同条には「法律の定めるところにより、納税の義務を負う。」とあり法律の留保が規定されています。この法律の留保を具体化したのが憲法84条です。

 

憲法第84条
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。


この条文は一般的に租税法律主義を規定したものと言われています。租税法律主義は、元々中世~近世ヨーロッパの封建領主や絶対君主が市民・国民に対して、戦費の調達や個人の欲望の満足のために恣意的な課税を行うことが多かったため、恣意的な課税から保護するために生まれた原則です。

「代表なくして課税なし」というフレーズを高校時代に習った読者諸兄も多いのではないでしょうか。

このことから、国(や地方公共団体)が国民に対して納税義務を課すためには、法律(や条例)の規定が必要であり、納税義務を課すための法律をまとめて租税法ということになります。

(法律の内容に制限は無いのか、条例や政令への委任は許されるのか等まだまだ論点は沢山ありますが今回は割愛)

 

「租税」そのものの説明をしていなかったのでここで説明します。

 

租税は、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてではなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付である。
最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁)

 

平たく言うと、

国家「国を運営するのに必要なお金を、条件に該当する国民みんなから徴収します!」

ということです。

社会保障制度の財源に徴収した税金が使われることはありますが、社会保障サービスの享受の対価が納税義務の履行とはなりません。Twitter上で「納税義務を果たさない者は~」という社会保障制度に対する意見()を見かけますが、これは間違いです

 

話が脱線したので戻ります。この租税法ですが、主に2種類に分けられます。租税実体法と租税手続法です。

租税実体法:納税義務の成立・承継・消滅を規律する法 Ex.所得税法法人税法

租税手続法:成立した納税義務の確定・履行の過程、納税者の権利救済に関する法

Ex.国税通則法国税徴収法所得税法等実体法の一部

 

民法民事訴訟法の関係がそのまま当てはまります。

民法のように、請求権(納税義務)の発生変更消滅を基礎づける実体法が租税実体法、民訴法のように請求権の行使方法を規定するのが租税手続法です。

 

そして、肝心の司法試験における租税法の出題範囲ですが、所得税法法人税法国税通則法の3つです。毎年司法試験用法文に掲載されているのがこの3つであり、また出題されている問題も3法に関するものに限られているためです(今まで消費税法等が出題されたことは無い)。

この記事は租税法の解説記事ではないので深入りしませんが、

所得税法所得税(会社から給料を貰ったり、商売をして稼いだお金にかかる税金)を規定した法律

法人税法法人税所得税の法人バージョン)を規定した法律

と理解してもらえば十分です。 

2.司法試験の租税法の問題について

司法試験の租税法の科目でどのような問題が出題されているのか、選択のメリットデメリットは何かについて、実際に問題を見ながら説明します。なお、選択科目は全科目100点満点、大問2つで時間は3時間です。

 

平成22年〔第1問〕(配点:50)
1 Aは、生計を一にする妻B及び子Cと同居し、飲食店を営む青色申告者である。
Aは、毎日夕方の開店から閉店までの間は、Cに調理の手伝いをさせる一方、Cに調理師の資格を得させてAの飲食店で調理師として働かせるため、昼間は、調理師専門学校に通わせていた。
Aは、Cに対し、調理の手伝いに見合う給与のほか、調理師専門学校の授業料相当額を、学資金だと伝えて支払っていた。Cは、学資金名目の金員を調理師専門学校の授業料に充てていた。
また、Bは、ピアノの演奏や教授を業としていたが、週末等時間に余裕があるときに、Aの飲食店で、ピアノの演奏を行い、その都度、Aから演奏料を受け取っていた。
2 Aが雇い入れた従業員甲は、自分の借金の返済などに窮したため、飲食店の売上金200万円を持ち逃げして、すべて使い果たした。
以上の事案について、以下の設問に答えなさい。
〔設問〕
1⑴ Cが支払を受けた調理師専門学校の授業料相当額の学資金名目の金員は、Cの課税上、どのように取り扱われるか。
 ⑵ AがBに支払った演奏料は、A及びBの課税上、どのように取り扱われるか。
2⑴ 甲の窃盗によりAが失った飲食店の売上金200万円は、Aの課税上、どのように取り扱われるか。
 ⑵ 飲食店がAの経営する法人であり、甲がその役員であったとして、甲が飲食店の売上金200万円を横領して、すべて使い果たした場合、法人税の課税関係はどうなるか。

 

設問1と2(1)は所得税法の問題です。これは、ABCがいずれも自然人であるためです。これに対し、設問2(2)はAの飲食店が法人と問題文で指定されているので法人税法の問題です。

出題割合としては、所得税法法人税法国税通則法(総論・手続法)=5:4:1でしょうか。メインは所得税法ですが、近年法人税法の出題が増えています。

 

科目としての租税法のメリットは↓になります。

 

・出題範囲が狭い

出題パターンの殆どは、「ある収入(支出)が法律上どのように扱われるのか」です(8割がこれ)。

また所得税法法人税法といっても出題される範囲は限定されており、細々とした手続の規定は殆ど出題されません。

辰巳法律研究所が以前出版した『1冊だけで租税法』という参考書には租税法版の趣旨規範ハンドブックが掲載されていますが、そのページ数はたったの80頁です。ほとんど何も書いてないに等しい憲法よりも薄いことから、範囲の狭さが窺われます。

 

・条文操作で解ける問題が多い

租税法は会社法と同じくらい(それ以上?)条文の当てはめが重要な科目です。

上の過去問ですが、設問1(1)は所得税法9条1項15号、設問1(2)は同法56条と57条、設問2(1)は同法37条、51条1項及び72条1項を素直にあてはめれば答案が書ける問題です。

いざとなったら六法を引いて、趣旨や規範をでっちあげて事実を拾ってあてはめれば「守れる」のがこの科目のいい所です(勿論判例知識をダイレクトに尋ねる問題(設問2(2))もありますが)

 

判例は基本的に百選のものを覚えていれば十分

実際の問題では最高裁判例だけではなく下級審の裁判例も出題されますが、殆どが百選に掲載されているものです。事件名、事案の概要、判旨(規範と理由付け、事実の評価)を頭に入れておけば対策としては十分です。

採点実感で判例の言及が求められている(極端な話、(判例同旨)でも判例に言及したことになるそう)ので、判例に言及すれば加点要素になります。

 

デメリットは↓になります(デメリットの方が多い気もするが気にしてはいけない)

 

・そもそも条文が分かりにくい、理解しにくい

設問1(2)で使う、所得税法56条を見てみましょう。

 

所得税法第56条
居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
 
 
 

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条文読解に躓く税法初学者の図

 

56条はまだ優しい方ですが、こういうクソ長い条文は要件と効果に分解して理解するのがよいです。

56条の要件は、

➀居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が

➁その居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける

56条の効果は

➀対価に相当する金額は、居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しない

➁親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する

➂親族が支払を受けた対価の額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす

➃親族の対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす

 

効果➀から④はそれぞれ別の効果です。条文はとにかく分解して理解しましょう。

 

・問いが不明確、誘導が無い(あっても不親切)

「課税上、どのように取り扱われるか」という抽象的な問いで即座に論点と参照すべき条文判例を検索できる人はエスパーです。

ロースクール辞めて今すぐスプーン曲げの練習をしましょう。

 

法律基本科目と違って、問いがかなり抽象的なのがこの科目の特徴です。論点落としや余事記載のリスクが高いのが辛い。

一応問題文にヒントがあるので、過去問演習をしてセンス(あまり好きではない表現ですが)を磨くしかありません。

 

・基本書や参考書の数が少ない

租税法は選択科目の中でもマイナー科目なので、基本書はともかく問題集や副読本があまり出版されていません。伊藤塾や辰巳、アガルートといった受験予備校でも租税法を扱った講座は答練以外で見かけたことがありません(あったら教えてくれ)。

対策としては、過去問でアウトプット→足りない知識は基本書や判例を読んでインプットの繰り返しになります。裏を返せば、これをひたすらやれば点を取れるということですが(たぶん)

 

・選択者の絶対数が少なく、独学しにくい

過去問の検討は自主ゼミでやるのが普通ですが、選択者が少なくゼミを組みにくいというのも辛い所です。

教材・勉強仲間が労働法・倒産法といったメジャーな科目と違い少なく独学が難しいのがデメリットです。

司法試験合格後に、司法試験の租税法対策の教材を提供できたらと思っています。

3.阪大ローでの租税法対策

結論から言いますと、租税法を選択するなら阪大ローに行け!とまでは断言できませんが、悪くはないですよ?というのが私見になります。

 

弊ローには元司法試験考査委員の谷口勢津夫先生がいらっしゃいます。この谷口先生がローの税法の科目を全て受け持っています。

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税法学会ではかなりのご重鎮

現在開講されている税法の科目は、

『税法1』(2年前期)

『税法2』(2年後期)

『企業課税法』(3年前期)

『税法演習』(3年後期)です。上三つの内容については過去記事を参照のこと。

 

lawschoolreport.hatenablog.com

lawschoolreport.hatenablog.com

lawschoolreport.hatenablog.com

 

今履修している『税法演習』ですが、各回に5~6個の判例判例が割り当てられ、判例解説とこれに関する質問についてのレポートを毎回作成し、先生に発表するというゼミになっています。

質問は、ケースブック租税法と税法百選に掲載されている検討事項から選択されています。

 

ケースブック租税法 第5版 (弘文堂ケースブックシリーズ)
 
租税判例百選(第6版) 別冊ジュリスト

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一つの判例につき一人という割り当てではなく、一つの判例につき判例報告が一人、質問が一人という割り当てになっているため各回一回は必ず当たります(運が悪ければ二周します)。

また、質問の内容がかなり難しい・質問の量も多いので税法の割にハードな予習が求められます。大体一回につき予習に3~4時間は取られます。

ですが、答案形式で質問の解答を行うので、答案練習が毎週できるのは嬉しいです。

 

また、授業外で過去問検討ゼミを行っています。谷口先生が考査委員をご担当されていない直近5年分の租税法過去問の答案を毎週1問ずつ作成し、先生の添削を受けるというものです。租税法選択者が私を入れて6人しかいないので、このようなゼミが可能になっています。

考査委員の視点から見た問題の解き方・答案の書き方を勉強できるのもそうですが、他の受講生の良い・悪い答案を見て「どう書いたら評価されるのか」を勉強できるのがいいですね。

因みに私の答案ですが、

「時効制度の基本的な理解がなっていない」

「答案構成がヘタクソ」

ボコボコにされたことをここで申し添えておきます

 

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このように、超上位ロースクールと比較するのは厳しいですが、弊ローは租税法を選択するのにいい環境と考えます。

 

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以上、今回も駄文をつらつらと書いてきました。

初日一発目ということで選択科目の出来不出来が後の科目に影響するといっても多分、恐らく、もしかして、いやひょっとしたら過言ではありません。

 

私は租税法の選択をお勧めしますが、当然向き不向きがありますので(予備ルートの方は難しいですが)いろいろ科目を触ってみて考えるのがいいと思われます。

 

今月号は以上です。年末にもう一回更新したいと思います。