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【税法ガール】第5話 Signal on the street(平成29年第2問)

前回(平成29年第1問)↓

lawschoolreport.hatenablog.com

 

本問は第2問にしては易しいというかなんというか...

(通常第1問が標準の難易度で第2問が難しい)

 

ーーー

「ご飯おいしかったねぇ~。」お姉さんがお代わりのジャスミンティーを啜りながら呟いた。

「ですね。ボリュームもあってお腹一杯になりました。」

おススメとされていたオムライスは、卵の内側が丁度いいくらいに半熟になっており、トロトロでフワッとした食感だった。中のチキンライスは業務用ではあったものの、オムライス専門店ではない店に手作りを求めるのは野暮だろう。

カルボナーラスパゲティもお姉さんから一口頂いたが、こちらはホワイトソースとパスタが絡まっており美味しかった。隠し味の粉チーズも効いていたと思う。

食器も片付けられ、先程ウェイトレスさんにデザートも持って来てくれるようお願いしたところだ。

 

閉店時間までまだ余裕はあるし、ここで第2問もやってしまいましょうか。」そう言ってお姉さんはまた参照用の基本書等を鞄から取り出していく。鞄とは言ったが、実際はスーツケースであり、以前見せてもらったものの中には書物がギッシリ詰められていた。大学や研究会に出向く時にはこれをゴロゴロ引っ張っていくという。

 

お姉さんを見て、昔スーツケースをいつも持ち歩くヒロインの刑事ドラマがテレビで流れていたことを思い出した。途中から超能力バトルものに開き直ったのには当時驚かされたものである。

 

 Aは,自宅の近くに店舗を借りて日本料理店を経営するとともに,別に一棟の建物内に複数の区分建物(以下,併せて「本件各賃貸物件」という。)を所有し,本件各賃貸物件を賃貸して賃料を得ていた。Aは,B銀行から,上記日本料理店の事業資金,本件各賃貸物件の購入資金及び自宅の購入資金として,約3億円の借入れを行っていた。借入れに際しては,本件各賃貸物件及びAの自宅に抵当権が設定されるとともに,Aの配偶者であるCが連帯保証人となっていた。
 Aの営む日本料理店は,マスコミにも取り上げられたことのある著名な店舗であったが,平成20年頃からの景気の悪化に加え,平成22年冬にA自身の過失により店舗内で火事を発生させたこ とから経営状態が悪化した。Aは,上記日本料理店の食材を納入しているD社から,平成24年末までに支援の趣旨で融資を受け,その後も細々と営業を継続していた。AのD社から受けた融資の 合計額は約600万円となっていた。また,本件各賃貸物件についても,老朽化が進み,賃借人が相次いで退去したが,一物件のみ賃料を大幅に減額した上で賃貸を継続している状況にあった。A とCの生計は,市役所で非常勤職員として働いているCの月額15万円程度の給与収入により維持されていた。
 Aは,平成24年からは,B銀行と交渉して借入金について元本の返済の猶予を受け,利息部分のみの支払を続けていたが,平成25年末からは利息の支払も滞るようになった。平成27年12月1日,B銀行のAに対する貸付金元本及び利息合計の残高は,①本件各賃貸物件の購入資金に係るものにつき1億円,②日本料理店の事業資金に係るものにつき6000万円,③自宅の購入資金に係るものにつき4000万円の合計2億円であった(以下,これらの債権を併せて「本件債権」という。)。これを踏まえて,A及びCはB銀行との間で,同日,Aが,その所有する本件各賃貸物件及び自宅を売却するなどし,本件債権につき上記①から③までの各残高に応じて案分して充当することとして1億円を弁済することとし,これを停止条件としてB銀行が残りの1億円の債務を免除する旨の和解契約(以下「本件和解契約」という。)を締結した。A及びCには,本件各賃貸物件及び自宅以外にめぼしい財産はなかった。Aは,平成27年12月10日にB銀行に上記1億円を弁済し,B銀行は,残りの1億円について債務を免除した(以下,Aに対するこの債務の免除を「本件債務免除」という。)。
 その後,Aが営む日本料理店は,外国人旅行者の間で評判となり,平成28年夏以降,経営状態が好転した。
 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。

 

〔設問1〕
 本件債務免除により受ける経済的な利益の価額を,Aの各種所得の金額の計算上,総収入金額に算入すべきであるかについて,具体的な事実を評価した上で所得税法第44条の2の適用の有無を検討し,算入すべきとする場合には各種所得ごとにその金額を明らかにしなさい(ただし,同条第3項の要件は充足しているものとする。)。
 なお,Aの日本料理店に係る事業及び本件各賃貸物件の賃貸業について,平成27年分の各種所得の金額の計算上生じた損失として,それぞれ500万円が発生していたものとする。
〔設問2〕
 Aは,平成22年冬の火事により,自己所有の器具と備品の一部を焼失したが,Aの平成22年の事業所得の金額の計算上この損失の金額を必要経費に算入できるか。事業所得の金額の計算上必 要経費を控除する理論的根拠に言及しつつ述べなさい。
〔設問3〕
 B銀行は,本件和解契約の締結までには至らない場合に備え,本件債権につき次の1又は2の処理を検討していた。
1 本件債権を債権回収会社であるE社に1億円で譲渡する。
2 本件債権の評価換えをして,その帳簿価額を1億円に減額し(ただし,損金経理はしない。),1億円の評価損を計上する。
 上記1及び2の処理について,法人税法上の取扱いの異同を述べなさい。

 

(参照条文)所得税法施行令
(固定資産の範囲)
第5条 法第2条第1項第18号(固定資産の意義)に規定する政令で定める資産は,たな卸資産,有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるものとする。
一 土地(土地の上に存する権利を含む。)
二 次条各号に掲げる資産
三 電話加入権
四 前三号に掲げる資産に準ずるもの
減価償却資産の範囲)
第6条 法第2条第1項第19号(減価償却資産の意義)に規定する政令で定める資産は,棚卸資産,有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。
一~六 (略)
七 工具,器具及び備品(観賞用,興行用その他これらに準ずる用に供する生物を含む。)
八 (以下略)

 

「第2問も第1問と同様、設問1と2が所得税法の問題、設問3が法人税法の問題ね。この年は所得税法だけじゃなくて、受験生の法人税法の理解も疎かになっていないか確かめる意図が作成者にあったと考えられるわ。司法試験の租税法を攻略するには、法人税法の条文や主な論点をマスターすることが肝要ね。」

「設問1ですけど、前段は所法44条の2の適用の有無を訊いています。条文検索能力が大事とお姉さんが仰っていた割には、かなり親切な気がしますね。」

適用すべき条文が確定しているなら、後は条文をあてはめて終わり、の気がするのだが。

「まあそう焦らずに、まずは所法44条の2の条文を見てみましょう。

 

第四十四条の二 居住者が、破産法(平成十六年法律第七十五号)第二百五十二条第一項(免責許可の決定の要件等)に規定する免責許可の決定又は再生計画認可の決定があつた場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合にその有する債務の免除を受けたときは、当該免除により受ける経済的な利益の価額については、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。
2 前項の場合において、同項の債務の免除により受ける経済的な利益の価額のうち同項の居住者の次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額(第一号から第四号までに定める金額にあつては当該経済的な利益の価額がないものとして計算した金額とし、第五号に定める金額にあつては同項の規定の適用がないものとして総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額を計算した場合における金額とする。)の合計額に相当する部分については、同項の規定は、適用しない。
一 不動産所得を生ずべき業務に係る債務の免除を受けた場合 当該免除を受けた日の属する年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額
二 事業所得を生ずべき事業に係る債務の免除を受けた場合 当該免除を受けた日の属する年分の事業所得の金額の計算上生じた損失の金額
三 山林所得を生ずべき業務に係る債務の免除を受けた場合 当該免除を受けた日の属する年分の山林所得の金額の計算上生じた損失の金額
四 雑所得を生ずべき業務に係る債務の免除を受けた場合 当該免除を受けた日の属する年分の雑所得の金額の計算上生じた損失の金額
五 第七十条第一項又は第二項(純損失の繰越控除)の規定により、当該債務の免除を受けた日の属する年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する純損失の金額がある場合 当該控除する純損失の金額
3 第一項の規定は、確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨、同項の規定により総収入金額に算入されない金額その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り、適用する。
4 税務署長は、確定申告書の提出がなかつた場合又は前項の記載がない確定申告書の提出があつた場合においても、その提出がなかつたこと又はその記載がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、第一項の規定を適用することができる。

「設問の括弧書で44条の2第3項の要件は充足しているとの断り書きがあるから、第3項は無視していいわ。第4項は実務上の宥恕規定*1だから、これも無視していい。本問で問題になりそうなのは第1項と第2項かな。」

「第1項は、要件が「破産法第第二百五十二条第一項・・・場合にその有する債務の免除を受けたこと」で、効果が「債務免除による経済的利益の価額を所得の計算上総収入金額に算入しない」という建付けになっています。質問なんですけど、債務免除の利益はどうして総収入金額に含まれるんですか?」

「債務免除益って、債務者が債務を弁済しなくてもよくなったっていう消極的利益だから、目に見える形で持っているお金が増える訳じゃないわ。けれど、債務が免除されたことによって本来弁済のために出ていくお金や財産が自分の所にとどまることになるから、その分だけ資産の増加を擬制することはできる所得税法が、純資産を増加させる一切の利得を所得とする包括的所得概念を採用していることから、資産を増加させる債務免除益も所得として総収入金額に含まれることになるわ(所法36条1項及び2項)。」

「確かに...包括的所得概念から考えればそうなりますね。」

「所法44条の2は、原則として総収入金額に算入されるべき債務免除益の価額を算入させない、「別段の定め」といえるわ。勿論条件があって、債務者の属性を免責許可や再生計画認可の決定を受けた人等に限定している。この問題は倒産法の問題じゃないから免責許可の内容については省略するけど、こういう人たちは大体、債務超過に陥っていて純資産がほとんどないことが多い。純資産の増加が形式的なものに留まるから、実情に即して課税しないことにしたの。

さて、本問ではAが免責許可や再生計画認可の決定を受けた訳じゃないから、「その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」に該当するかが問題になるわ。そのままこれを規範に用いてもいいけど、あてはめがしやすいよう「現在及び将来において債務者による弁済を期待できない場合」と解釈したり、興銀事件最高裁判決【58】のように考慮要素を挙げてもいいかもしれないわね。本問ではどうなるかしら?」

「Aが経営する日本料理店は、平成20年頃からの景気悪化と平成24年に発生した火事によって経営が悪化し、Aは融資を受けて細々と営業を継続しています。問題文には平成28年夏以降経営状態が好転したとありますが、判断の時点は債務を免除した平成27年12月10日ですから、考慮できないと思います。なので、日本料理店の営業利益から債務を弁済することは難しいといえます。」

「そうね!他の事情はどうかな?」

「Aは日本料理店とは別に本件各賃貸物件を所有して賃貸していましたが、既に物件を売却していますので賃貸収入から弁済することはできません。Aにめぼしい資産は無いので責任財産を競売にかけることもできません。Aの配偶者Cには15万円の給与収入があり、Cは連帯保証人であることから差押えて回収することもできそうですが、15万円は二人の生活費となっている以上現実には難しいでしょう。いずれにせよ、Aが「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である」ことに疑いは無いでしょうね。」

「うんうん!事実をできるだけ拾って評価するのが本問では重要ね!結論はどうなるかな?」

「所法44条の2第1項が適用されて総収入金額に算入される金額は0だと思ったんですけど...」

設問の2段落目の文章が気になる。

「債務免除益の価額の中には、損失のように課税されない部分が含まれるものがあるの。もしそのまま所法44条の2第1項が適用されると、債務者は損失の必要経費控除(所法51条等)のみならず、総収入金額不算入の利益も享受することになってしまう。このような二重の利益を防止するために所法44条の2第2項は、各所得の金額の計算上生じた損失の額に相当する免除益の価額を総収入金額に算入する扱いをしているわ。

第2項を適用するためには、本件債務免除の価額を所得毎に分類することが必要だから、まずは分類してみましょうか。」

「本件債務免除の元になった本件債権は、➀本件各賃貸物件の購入資金に係る1億円、➁日本料理店の事業資金に係る6000万円、➂自宅の購入資金に係る4000万円です。そして、1億円は既に按分して弁済されているので、免除前の債権は➀5000万円、➁3000万円、➂2000万円となります。

合計1億円が本件債務免除の対象となるわけですが、➀は不動産の賃貸に係る利益ですので不動産所得(所法26条1項)です。➁は料理店の経営という事業に係る利益ですので事業所得(所法27条1項)です。➂は悩みますが、一時所得(所法34条1項)でしょうか。」

「いいわね!そして、本件では日本料理店の事業と本件各賃貸物件の賃貸業のそれぞれについて500万円の損失が発生しているから、➀については所法44条の2第2項1号の、➁については同項2号の適用によって500万円は総収入金額に含まれることになる。これが答えね。」

あてはめだけではなく、条文操作も要求されるのか。設問1は確かに難しい。

 

「お待たせ致しました。イチゴのパンケーキと、モンブランになります。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい、ありがとうございます。

「こちらが伝票になります。ごゆっくりどうぞ。」ウェイトレスさんが再び奥へ戻っていく。店内には僕たち以外に客がおらず、シン、と静まっている。

「いただきまーす!ハムッ、もぐもぐ.........んーーーおいしい!

あつあつのパンケーキにイチゴのソースとアイスクリームがよく合うわね!!」

お姉さんがパンケーキを頬張りながら言う。

「よくここでパンケーキを頂くんですか?」

「研究で煮詰まったときに行くかな。自分でも作れるか試してるけど、フワフワした食感を再現するのは難しいわ。こういうのはプロに任せるのが一番ね。」ウンウン、と唸りながら言う。

チラッと時計を見るともう7時30分。閉店まであと30分だ。

「設問2に行きましょうか。設問2は、Aが所有していた器具と備品の損失を事業所得の計算上必要経費に算入できるかという問題ね。これについてはどう?」

もうパンケーキの皿は空になっている。食べるスピードが速い。

所得税法は、所得稼得に貢献する費用とそうでない損失を明確に区別しています。本問で問題になっている損失は、所法37条1項の「総収入金額を得るために直接に要した費用」と「所得を生ずべき業務について生じた費用」のいずれにも該当しません。

そうすると、本問の損失は必要経費に算入できないといえそうです。」

「それが所法37条1項の適用の帰結よね。でも、その結論が本件で妥当といえる?」

「そうですね...損失の客体が事業に関係する資産であった場合、損失によって資産を用いた事業の遂行に影響が生じ担税力の減少という結果をもたらします。これを考慮するべく、所法51条は「別段の定め」として、事業の用に供される固定資産の損失の額を必要経費に算入されることを認めています。

所得税法上、固定資産(2条1項18号)の範囲に減価償却資産(2条1項19号)を含めている(所法令5条2号)ところ、器具や備品は減価償却資産に該当する(所法令6条7号)ため、固定資産に該当します。A所有の器具や備品は平成22年冬の火事によって「滅失」しているので、所法51条1項が適用されます。結論としては、損失の額が必要経費に算入されます。」

「結論はそれでいいわね!一つ確認したいんだけど、滅失の原因になった火事はAの過失によって生じているよね?「滅失」の原因にAの帰責性が認められる点はどうかな?」

「所法51条1項は明文で損失の発生の帰責性を問題にしていません。また、同条の趣旨である資産の損失による担税力の減少と、損失発生の帰責性は無関係ですので実質的にも特に問題は無いと思います。」

「いいわね!これで設問2も終わりかな。もうすぐ閉店だし、設問3はこちらで引き取るわ。

E社に本件債権を譲渡した処理(処理1)については、B銀行が取得した代金1億円がB社の所得の金額の計算上益金の額に算入されるわ(法法22条2項)。そして、本件債権の元々の価額である2億円は、譲渡原価として損金の額に算入される(法法22条3項1号)。この処理単独で見れば、所得の金額はマイナス一億円になる(法法22条1項)わね。

これに対して、本件債権の評価替えをして1億円の損失を計上した場合(処理2)、法法22条3項3号を適用して1億円を損金の額に算入できるとも思える。でも、法人税法は資産の評価損の損金算入を認めていない(33条1項)から、結論としては1億円を損金の額に算入することができない。この2つの処理ではB銀行がいずれも1億円の損失を被っているにも拘わらず、処理1でのみ損金算入が許されるという相違が生じている。

理由を端的にいえば、実現主義の採用ね。実現主義を明記した条文は無いけど、法人税法が公正処理基準を採用していること(法法22条4項)、会計処理基準によれば発生主義によって損益が認識される*2ことから導かれるわ*3

処理1では2億円の資産を1億円で売却して1億円の損失が客観的に実現しているけど、処理2では会計処理に過ぎない以上1億円の損失が客観的に実現したとはいえない。こんなところかしら?」

「処理だけじゃなくて、相違の理由を示すことが大事なんですね。」

「お客様~閉店の時間でございます。」腕時計の短針は8時丁度を指していた。

 

 

ーーー

店を出て、二人で駅へ戻る歩道を歩く。

「昨日今日で頭を使って大変だったのに、長時間付き合ってくれてありがとう!」

「いえいえ。気分転換になりましたし、何よりご飯もご馳走になってしまって申し訳ないです。」

会計時、せめて自分の分は払おうと財布を取り出そうと鞄に手を入れたが、チャリーン♪とスマホ決済の音が鳴ったのを聞いた。最近の喫茶店はバーコード決済にも対応しているらしい。

ウェイトレスさんは、「いい年して彼女に全部払ってもらうのかコイツは」といいたげな顔をしていた。僕は悪くない...いややっぱ悪いわ。

「もうすぐ夏休みだけど、何か予定とかあるかな?」お姉さんが僕に質問してくる。

「お盆に帰省する他は特にありません。7科目の司法試験の過去問を解こうと思ってます。」今の内にコツコツやって来年焦らないようにする作戦だ。

「いい心掛けだと思う!

もし時間があったら、一緒に勉強合宿しない?夏休みのプチ旅行ってことで!

私いい場所知ってるの。海も近いから、勉強終わったら海でバーベキュー、夜は花火!って感じで!」

まさかのリア充イベント到来で心臓がバクバク高鳴っている。

こんな体験、絶対ロースクールでは味わえないだろう。断る理由が無い。

僕は迷わずお姉さんに向かって━━━

 

 

「も、もももしししじゃじゃまでなければ、よよよろしくお願いします!!」

格好悪いよなあ...

 

 

(解答例)

設問1
1 所得税法(以下、所法)44条の2第1項の適用の有無
(1) 本件において所法44条の2第1項が適用されれば、本件債務免除によりAが受ける経済的利益の価額はAの各種所得の金額の計算上総収入金額(同法36条1項及び2項)に算入されない。そのため、同項の適用の有無が問題となる。
(2) 所得を、源泉の如何を問わず人の担税力を増加させる一切の利得とする包括的所得概念からすれば、債務免除益は借入金の返済を免除し純資産を消極的に増加させるものであり所得に該当する。もっとも、債務の弁済を免除された債務者は通常債務超過に陥り担税力を喪失しているため、免除益は形式的なものにとどまる。所法44条の2はこのような形式的な利得に課税することの不当性を考慮した規定である。
 このような同項の趣旨を考慮すれば、同項の「その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」は、現在及び将来において債務の弁済を凡そ期待できない場合と解すべきである。
(3) これを本件についてみるに、Aは現在日本料理店を経営しているが、平成20年頃からの景気の悪化及び平成22年冬の店舗内の火事を原因として経営状態が悪化している。そのため、経営の純利益から1億円の債務の弁済を期待することはできない。またAは本件各賃貸物件を所有しこれらを賃貸していたが、本件債権弁済のために売却している。したがって、賃貸利益から弁済を期待することはできない。Aにめぼしい責任財産がないこと、平成25年末からは元本のみならず利息の支払もできなくなっている現状から、現在においてAによる債務の弁済を凡そ期待できない。そして、Aは細々と日本料理店の営業を継続しており、経営が好転する見込みが十分にあるとはいえない。よって、将来の債務の弁済も期待できない。
 確かにAの配偶者Cは月額15万円の給与収入を得ており、15万円の一部から弁済を促す等をすることによって、債務の弁済を期待できるとも思える。しかし、15万円の収入はA及びCの生計を立てるために必要不可欠であり弁済を促すことは現実的とはいえない。Cの収入の存在は結論に影響しない。
(4) よって、所法44条の2第1項の「その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」に該当し、同項が適用される。
2 算入すべき金額
(1) Aは本件債権の内、➀本件各賃貸物件の購入資金に係る5000万円、➁事業資金に係る3000万円及び➂自宅の購入資金に係る2000万円を弁済している。本件和解契約の内容からすれば、➀、➁及び➂につき同額の債務が免除されたといえる。
 そして、所法44条の2第1項の適用により、➀不動産所得(同法26条1項)の金額の計算上5000万円は総収入金額に算入されず、➁事業所得(同法27条1項)の金額の計算上3000万円は総収入金額に算入されず、➂一時所得(同法34条1項)の金額の計算上総収入金額に算入されないとも思える。
(2) しかし、各所得の金額の計算上生じた損失の金額が存在する場合は、納税者が総収入金額不算入及び損失控除の二重の利益を得ることを防止するため、その損失の金額に相当する免除益の金額は総収入金額に算入される(所法44条の2第2項)。
 本件では、本件各賃貸物件の賃貸業及びAの日本料理店に係る事業についてそれぞれ500万円の損失が発生している。したがって、不動産所得の金額の計算上500万円(同項1号)が、事業所得の金額の計算上500万円(同項2号)が総収入金額に算入されるべきである。
設問2
(1) Aは前述した火事により、自己所有の器具と備品の一部を焼失するという損失を被った。この損失の金額を所法51条1項に基づき、事業所得の金額の計算上必要経費(27条2項及び37条1項)に算入できるか。
(2) 事業所得において必要経費控除が認められている趣旨は、所得稼得に貢献する投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避け担税力に応じた課税を実現することにある。そして、雑損失は所得稼得に貢献せず家事費(所法45条1項)に類似するものであるから、原則として必要経費控除が認められない。
 もっとも、事業用固定資産(所法2条1項18号)の損失は実質的に担税力の減少をもたらすものであるから、上記の趣旨が妥当する。同法51条1項は同法37条1項の「別段の定め」として、資産損失の必要経費算入を例外的に認めている。
(3)ア 所法2条1項18号の固定資産には、同項19号の減価償却資産も含まれる(所得税法施行令(以下、所法令)5条2号及び6条)。そして、所法令6条7号は減価償却資産として工具、器具及び備品を挙げる。
 本件でAが日本料理店において使用していた自己所有の器具及び備品は減価償却資産に該当し、固定資産に該当する。よって、これらは所法51条1項の「事業所得・・・を生ずべき事業の用に供される固定資産」に該当する。
イ Aは自己所有の器具及び備品を火事により「滅失」している。この火事はAの過失によるものであるが、所法51条1項は資産の滅失等につき無過失を要求していない。そのため、Aの過失の有無は同項の適用上問題にならない。
 また、本件では同項第二括弧書の事由も存在しない。
(4) よって、本件では所法51条が適用され、損失の金額を事業所得の金額の計算上必要経費に算入できる。
設問3
1 各処理の法人税法上の取扱い
(1) 処理1について、B銀行がE社に本件債権を代金1億円で譲渡した行為は「有償による資産の譲渡」(法人税法(以下略)22条2項)に該当する。よって、1億円がB銀行の所得の金額の計算上益金の額に算入される。
 そして、本件債権の価額2億円が、譲渡原価(22条3項1号)としてB銀行の所得の金額の計算上損金の額に算入される。
(2) 処理2について、B銀行は本件債権の帳簿価額を2億円から1億円に評価替えをして、これにより差額1億円の評価損が生じている。もっとも、この1億円はB銀行の所得の金額の計算上損金の額に算入されない(33条1項)。
2 取扱いの異同
 処理1と処理2は、B銀行は法人税法上1億円の損失を被っている点で共通している。その一方で、処理1では損金算入が認められるのに対し、処理2では算入が認められない点で異なっている。これは、法人税法が損失の発生について客観的な確定性及び確実性を要求するという実現主義を採用しているためである。処理1では評価損が債権譲渡によって客観的に実現しているが、処理2では評価損が実現したといえない。

以上

 

ーーー

 

設問1については藤間先生による解説が詳しいので皆も読もう!

taxfujima.hatenablog.com

 

次回(平成30年第1問)

lawschoolreport.hatenablog.com

 

*1:ある行為が法律要件とされている場合に、その要件を充足しない場合でも、一定の場合にその要件を充たしたと同様の法律効果を認める規定

*2:第二 損益計算書原則

損益計算書の本質)
一 損益計算書は、企業の経営成績を明らかにするため、一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用とを記載して経常利益を表示し、これに特別損益に属する項目を加減して当期純利益を表示しなければならない。
 A すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。

*3:金子・357頁以下