DocumentaLy.

ここにテキストを入力

【税法ガール】第13話 Vigilante(令和3年第1問)

年内に終わるどころか2月に突入したのは偏に私の怠慢です

だが私は謝らない

 

※以前令和3年の解説については、答案例と一緒に自分の再現答案も掲載すると言ってましたが、改訂された『一冊だけで租税法』に掲載されている再現答案が自分の奴だったのので、(権利関係がめんどくさくなることを防止するために)載せないことにします。申し訳ございません。

皆も『一冊だけで租税法』を買おう(ダイマ

 

前回(令和2年第2問)

lawschoolreport.hatenablog.com

 

 

ーーーー

ヤマグチ教授との問答に負けた僕は、そのまま白い闇にに包まれ、意識が暗転した────はずだった。

余りの眩しさに思わず左腕で額を隠す姿勢になってしまったが、意識は未だ保ったままでいる。僕は恐る恐る左腕を降ろし、視線を教授の方へ向ける。

 

そこには、横倒しに倒れている女性、いや今までずっと帰りを望んでいた彼女の姿があった。

 

「しくじったか....」酷くつまらなそうにそう呟く教授を他所に、僕は一目散に彼女の下へ向かう。

「お姉さん、しっかりして下さい!!」両肩を揺すりながら、彼女にそう叫ぶ。

「ご、めんなさい....はっきり君に伝えることができなくて....」

「今救急車呼びますから!!無理しないで下さい!!」

「本当は...そのまま居なくなるはずだったけど...君がそれでもわたしを...」

「後でゆっくり聞きますから!!今は体を...ってこれは!?」

スマホを取り出して通報しようとすると、彼女の体が透明に薄れ始めているのに気づいてしまった。

彼女がどうなってしまうのか想像できてしまう。それでも、理解できないという感情が溢れ、両目から零れ落ちていく。

「さい...ごにひと...つだけ...つたえても...」

「最後なんて言わないで下さい...僕は、貴方に...」

「あなたのこ」

次の瞬間、彼女の輪郭が光の粒となって、研究室の四方に飛び散っていった。

自分の消失も顧みず、僕をあの光から守ってくれたのだろうか。

また、彼女に何もしてやれないという不甲斐なさに、涙が止まらなかった。

 

 

「全くもって不愉快だ。私はまだ彼女を完全にコントロールできていなかったらしい。

恐らく君の声に反応して一時的に私から離脱できたのだろうが、所詮はこの世界から存在を否定された身。精々数分保ったというところだろう。

これで邪魔者は誰もいなくなった。改めて、君の記憶を消し去ることにする。」

 

教授の声を聞いて、ガチャリと頭の中で何かが弾けた気がした。

僕は涙でぐちゃぐちゃになった眼鏡を外し、上着のポケットにしまう。

そして、教授にこう言い放った。

 

「貴方はもう私の教授でも何でもない。

自分は何もしない、できないくせに、人を嘲ることしかしない。ただの下衆野郎だ。

でも、この世界では誰も貴方を裁くことはできない。だから─────お前を殺す

 

その瞬間、研究室だった空間にヒビが入り、ガラスのように崩れ去っていく。研究室を形どっていた壁や棚、書物はバラバラになり、そして消えていった。

僕とヤマグチの二人だけが、何もない無の空間に取り残される。

 

「何だこれは!?お前はどういう魔術を使ったのか!」

ヤマグチが慌てふためく姿を初めて見た気がした。どうやらこの状態を強制的に解除する類の魔術は持っていないらしい。

「お前に説明する義理は無い。

問題は令和3年租税法の第1問。問答を続けよう。」

 

(以下、推奨bgm ボーカル入りの原曲)


www.youtube.com

 

(こっちはボーカルなしのアレンジ)


www.youtube.com

 

 Aは,平成元年1月からBと婚姻し同居していた。婚姻中は,Aが専ら収入を得ており,Bは家事に従事していた。
 Aは,平成12年12月31日付けの契約で,不動産業者である株式会社P社から,土地(以下「本件土地」という。)を4000万円の対価により取得した。この金額は,この時の本件土地の時価と等しいものであった。Aは,この金額を,婚姻中に蓄積した貯蓄から支払った。
 平成18年3月1日,AとBは離婚することになった。同日,財産分与として,Aは本件土地をBに引き渡した。この時点において,AとBとが婚姻中に形成した資産の時価相当額は約1億円であり,本件土地の時価は5000万円であった。
 平成20年3月1日,Bは,本件土地を個人Cに5500万円の対価により譲渡した。
 Cは,本件土地の取得後直ちに,その上に居住用の部屋10室から成る建物(以下「本件建物」という。)を建築した。そして,平成22年1月から,本件建物の各部屋を賃貸する不動産賃貸業を個人で営み始めた。本件建物の賃借人は,C名義の銀行口座への振込みによりその賃料を支払っていた。本件建物に係る賃貸借契約や管理業務には,Cはほとんど関わっておらず,Cの子であるDが事実上行っていた。Dは,本件建物の部屋の一室に居住しているが,Cに対して賃料の支払はしていない。
 さらに,Cは,平成23年1月から,本件建物の一室を使って,個人でQ鍼灸院という屋号の鍼灸院の事業を開始した。鍼灸の施術サービスを行うには,はり師及びきゅう師の国家資格が必要であったが,鍼灸院の経営自体は,経営者がはり師及びきゅう師の国家資格を持っていなくても,はり師及びきゅう師の国家資格を持つ者を別に雇用することで営業することが可能であった。Cは,個人経営者としてQ鍼灸院の事業運営を取り仕切り,また,はり師及びきゅう師の国家資格を持つFを雇用した。Fが来院客に鍼灸の施術サービスを提供するとともに,C自らは,施術サービスを行うのに国家資格の不要なリラクゼーションセラピストとして,来院客にリラクゼーションの施術サービスを提供し,Q鍼灸院は鍼灸及びリラクゼーションの各施術サービスによる収入を得ていた。
 Cは,本件建物の居住用の部屋の賃貸収入と,Q鍼灸院の収入により生計を立てていた。
 他方,Cは,平成26年1月から,かねて趣味にしようと考えていた生花の専門学校に半年間通い,その腕を磨き,かなりの腕前を持つに至った。そこで,Cは,同年10月に,Q鍼灸院の待合室に自作の生花を飾ったところ,来院客からも好評で,待合室の雰囲気が良くなったためか,生花を飾って以降毎月の売上げが1割上昇した。
 さらに,Cは,将来は自らも鍼灸の施術サービスを提供し,より多くの来院客に施術サービスを提供できるようにし,Q鍼灸院の事業の拡大を図ろうと考え,平成27年1月から,はり師及びきゅう師の国家資格取得のための専門学校に通い始め,はり師及びきゅう師の国家資格取得を目指した。
 令和元年10月にCが死亡し,Cの子であるD及びEの2名のみが共同相続人となったが,現在に至るまで遺産分割協議は成立していない。なお,Cは遺言をしていない。また,C死亡後,速やかにQ鍼灸院は廃業した。
 本件建物の居住用の部屋の賃料については,DとEとの合意により,遺産分割協議が成立するまではD名義の銀行口座への振込みにより受領することとし,その旨を賃借人に通知した。実際に,令和2年1月からは,本件建物の賃借人は,D名義の銀行口座への振込みにより賃料を支払っている。この賃料収入は,現在に至るまでD名義の銀行口座から引き出されていない。
 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。

 

1 平成18年3月1日に,Aが本件土地をBに引き渡したことは,財産分与の額として適正なものであったとする。このとき,
⑴ 上記の財産分与に関して,Aの所得税の課税関係はどうなるか。
⑵ 平成20年3月1日に,Bが本件土地をCに譲渡したことに関して,Bの所得税の課税関係はどうなるか。
2 Cの平成26年分の所得税の計算上,Cが生花の専門学校に支払った学費は,CのQ鍼灸院に係る事業所得における必要経費に該当するか。また,Cの平成27年分の所得税の計算上,同年中にCがはり師及びきゅう師の国家資格取得のための専門学校に支払った学費は,CのQ鍼灸院に係る事業所得における必要経費に該当するか。
所得税法上は,令和2年分の本件建物の居住用の部屋の賃料収入は,誰に帰属するか。

 

「この年の第1問は所得税法のみの出題か。いいだろう。

設問1の小問(1)だが、君はどう考えるかね?」落ち着きを取り戻したのか、ヤマグチは余裕ぶって訊ねてくる。

「AはBに対して、離婚に伴う財産分与(民法768条1項)として本件土地を引き渡している。譲渡所得(所法33条1項)の趣旨である清算課税説からすれば、このような財産の引渡しも当然「資産の譲渡」に該当する。譲渡した離婚当事者は、財産を譲渡することで分与義務の消滅という経済的利益を得ることができるからだ。

本件では、分与した本件土地の時価5000万円がAの譲渡所得の金額の計算上、総収入金額(所法36条1項)に算入される。これは名古屋医師財産分与事件判決【45】を知っていればなんてことは無い問題だ。」

「これくらいは簡単か。なら、後の処理も説明してくれたまえ。」

「言われなくても分かっている。Aは本件土地を平成12年12月31日にP社から4000万円の対価で購入しているから、「資産の取得費」(所法33条3項及び38条1項)は4000万円になる。

Aの譲渡所得の金額(所法33条3項)は、5000万円から取得費の4000万円と、特別控除額50万円(所法33条4項)を控除した950万円になる。」

「解答はそれで以上かね。」

「いや。Aは平成12年末から平成18年3月1日まで本件土地を所有しており、所有期間は5年を超えている。したがって、Aの所得は長期譲渡所得(所法33条3項2号)になり、Aの課税標準は譲渡所得の金額の二分の一になる(所法22条2項2号)。Aの課税標準が475万円であるというのが小問(1)の解答だ。」

「小問(1)の解答はそれでいいだろう。次は小問(2)。財産分与によって本件土地を取得し、それを譲渡したBの処理はどうなる?」

「Cへの譲渡の対価5500万円が総収入金額に算入されることは明らかだ。次に資産の取得費だが、Bは財産分与によって本件土地を譲り受けている以上、同土地の取得と引き換えにBに対する財産分与請求権を失っていると評価すべきだ。そうすると、財産分与請求権の額が「資産の取得費」となる。

本問において、本件土地の額は財産分与の額として適正なものという指示がなされている。そうすると、財産分与の時点である平成18年3月1日現在の本件土地の時価5000万円がBの「資産の取得費」となる。

 

東京地判平成3年2月28日行集42巻2号341頁(抜粋)

譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費とは、その資産の取得に要した金額等をいうものと定められている(所得税法三八条一項)が、離婚に伴う財産分与として資産を取得した場合には、取得者は、財産分与請求権という経済的利益を消滅される代償として当該資産を取得したこととなるから、その資産の取得に要した金額は、原則として、右財産分与請求権の価額と同額になるものと考えるのが相当である。そして、財産分与を命ずる判決等において、当該財産分与請求権の金額が明示されているときは、その金額がそのままその価額となることは明らかであるし、また、財産分与として分与される資産の価額が明示されている場合も、その資産の価額がそのまま財産分与請求権の価額になるものと推認することができる

 

 

後は小問(1)の処理と同じだ。Bの譲渡所得の金額は、5500万円から5000万円と特別控除額50万円を控除した450万円となる。ただ、Bは本件土地を取得してから5年以内に同土地をCに譲渡している。そのため、Bの所得は短期譲渡所得(所法33条3項1号)となり、課税標準は450万円だ(所法22条2項1号)。」

「設問1はこんなものか。譲渡所得の意義・計算を問うごく基本的な問題とはいえ、やるじゃないか」

「何呑気なことを言ってるんだ。足元を見

「何...?こっ、これは!?くっ、動けない!説明しろ!!」

ヤマグチの足元から、ダガーナイフを模した二本の蒼い楔が伸び、それぞれ両膝を貫通していた。

「自身が設定した結界の中に他人を強制的に閉じ込め、さらにその者に対して物理的干渉を行う...これほどの高度な魔術を使える者は聞いたことがない!!」

「僕はお前をここに引きずり込む前にルールを設定しておいた。

一つ、ここでの問答が終了するまでお互いここから出ることはできない。

二つ、僕が一問でも間違えた場合は、ペナルティとして僕は死ぬ。

そして最後の三つ。僕が設問3まで全て解答した場合、お前はここで死に、この世界から永遠に消滅する

設問1が終わった以上、どちらが死ぬまでここから出ることはできない。

さあ、講義を続けましょうか。ヤマグチ教授(せんせい)。」

「いいだろう。いずれにせよ、これが君にとっての最終講義となる訳だ。

この一年間で君が成長したか、そうじゃないのか、見定めさせて貰おうじゃないか!」

 

ーーー

次は設問2。問題文にCの事情が多く掲載されている以上、本問のメインとなる問題だろう。ここを落とすことはできない。

僕は、ヤマグチに対する牽制も込めて先に切り出した。

「まずCが生花の専門学校に支払った学費だが、そもそも必要経費(所法37条1項)の要件に該当するかをまず検討するべきだ。

必要経費に該当する費用は、「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用」か、「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」になる。前者は、所得稼得の為に支出が不可避という意味での直接対応の必要経費*1、後者は所得稼得のための業務に関連するという意味での間接対応の必要経費*2といっていいだろう。」

「間接対応の必要経費についてだが、裁判例の中には要件として直接性を要求するものもある。これについてはどう考える?」

「所法37条1項後段はそのような直接的関連性を要件として要求していない。課税者に不利な課税用件の創設は租税法律主義に反し許されないとすべきだ*3。」

「なるほど。そのような考え方もある。続けたまえ。」

「Cは平成26年において、本件建物の部屋の賃貸とQ鍼灸院の経営の事業を行っている。生花の専門学校へ通学し、学費を支出することはいずれの事業の継続にとっても必要不可欠ではなく、支出が不可避だったとはいえない。よって、直接対応の必要経費に該当しないといえる。」

「では間接対応の必要経費は?」

「Cが専門学校へ通学して習得した生花の技術を活かしてQ鍼灸院の装飾を行い、その結果来院客の呼び込みに成功したと捉えるならば、専門学校へ支払った学費は鍼灸院の設備への投資と評価できる。この場合、学費は鍼灸院の経営という業務に関連するといえるから、間接対応の必要経費に該当する。」

「間接対応の必要経費に該当するという結論か。

で、この後はどうする?勿論これで解答を終わらせても構わないが?」

「....」

設問の量から、これで前段の解答は必要十分だと思っていた。が、それだと次の小問の、国家資格取得のための専門学校に支払った学費の検討と結論が同じになってしまう。

それに、問題文の「かねて趣味にしようと考えていた」の記述が引っかかる...

「あと1分。1分後に君の答えを聞こう。」

まずい。

何か考えなければ。

必要経費の条文は何か無いか。頭の中で37条周辺の条文を思い浮かべるも、何も思いつかない。

このままだとゲームオーバー、すなわち死。

ここで落とす訳にはいかないのに──────

 

 

(落ち着いて。まずは制度趣旨に遡ってごらん)

制限時間の重圧で思考がショートする寸前、背後から馴染みのある声が聞こえてきた。

「この声は!?」

(昔君に言ったよね。税法は条文、そして制度の趣旨に遡ることが重要だって)

振り向くも、そこには誰もいない。けれど、その声の温もりを感じることはできた。

(君が私のことを想ってくれていたように、私も君のことを想っている)

そうだ、僕は一人じゃない。

眼を閉じて心を落ち着かせ、無の境地へ。

やがて暗闇の世界に光が生まれ、僕達を包み込んでいく。光は二色から三色になり、やがて虹色に変わっていった。

(さあ、行きましょう。この光は私たちが生み出しているものじゃない)

ええ、分かっています。みんながこの中に……!

 

 

「人の中から発した光……この温かさを持ったものが…...馬鹿げたものだ。」

それを決めるのはお前じゃない。生花の専門学校に支払った費用は、生花の趣味の一環で支出したものだから、所法37条1項の「別段の定め」である所法45条1項1号が適用され、必要経費から除外されるかが問題となる

「そこに気づくとは。もう少しで終わる所だったのに...」ギリッとヤマグチが歯ぎしりをする。

必要経費を所得から控除するのは、それが所得稼得のための費用であることに基づく。つまり、趣味の費用のように所得を稼得するのではなく消費するための費用であるならば、控除すべきではない。家事費は消費するための費用であり、家事関連費は費用の峻別ができない以上、必要経費に該当しないことになる。

本件においては、学費は家事関連費に該当し、所法45条1項1号が適用されることになる。

「くっ....!」

これに対して、国家資格取得のための専門学校に支払った学費は、Q鍼灸院の事業の拡大という目的のために支出している。確かに平成27年分の事業所得の稼得には寄与していないものの、C自らが鍼灸の施術サービスを行い来院客数を増加させるという点で、経営の業務と関連する。そして、間接対応の必要経費は直接性を要件としていない。よって、学費は間接対応の必要経費に該当する。

これで設問2は終わりだ!

「ぐはっ!!」

設問2の解答を終えたことを宣言したと同時に、ヤマグチの両手は両足と同様蒼色の楔に串刺しにされる。ヤマグチの身体は、磔にされたように動かない。

「残すは設問3か...まさか教え子にここまで追い込まれるとはな...」

まだだ。まだ終わっていない。

設問3は賃料収入の人的帰属の問題だ。居住用の部屋の賃料収入は不動産所得(所法26条1項)に分類されるが、その所得が誰に帰属(所法12条)するか問題となる。

「...どのように帰属を判断するのか、一応訊こう。」

人的帰属の判断基準には、主に法律上の真実の権利者に所得を帰属させる法律的帰属説と、収益の内容や実質を構成する経済的利得を事実上享受している者に帰属させる経済的帰属説の二つがある。

これについては、帰属の判定基準が明確であり、納税者の予測可能性や法的安定性、税務行政の公平な執行に資する法律的帰属説によるべきだろう*4

判例も、法律的帰属説を前提にした人的帰属の判断を行っている【108】)。」

「....」

本件においてCが令和元年10月に死亡した後、本件建物の賃料はCの子であるD名義の銀行口座に振り込まれている。

もっとも、Cの相続人であるDとEとの間で遺産分割協議は未だ成立しておらず、相続財産の本件建物はDとEの共有(民法898条1項、249条1項及び250条)となっている。判例上、相続財産である不動産から発生する賃料は各相続人が相続分に応じて確定的に取得する*5以上、とEは相続分である二分の一ずつ賃料を取得することになる。

したがって、本件建物の賃料は、二分の一の限度でDとEに帰属する。これが設問3の答えだ。

 

 

...めない

「何!?」

認めない認めない認めない認めない!!!私は絶対に認めない!!!!

こんな若造に私が負けるなど、あってはならない!!

私は更なる高みに、租税法学の頂点に辿り着かなければならないのだ!!!

 

(最初の勿体ぶった態度は何処に行ったのかしら...)

けど、それは他人を犠牲にして得るものなんかじゃない。仲間と一緒に競い合って、時には助け合って掴み取るべきものなんだ。お前にはそれが欠けていた。

山口教授も、お姉さんもお前を信頼していたはずなんだ。けれど、それを踏み躙ってしまった。

問答はこれで終わりだ。報いを受けろ

僕は空間を閉じるために指を鳴らそうとした。

「せめてお前だけでも道連れにしてやろう!!!!!

イ゛ェアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

断末魔に似た叫び声を上げたその瞬間、ヤマグチの体が白く発光した。そして、体はブクブクと膨らんでいき、全身が獣の毛で包まれていく。

顔は醜く変形していき、口から牙が何十本も生え揃っていった。

そのシルエットは、あの大怪獣を彷彿させる。

人のことは言えないが、いくら何でも無茶苦茶ではないか。

 

「グラグラゥルゥゥゥゥァァアアア!!!!!!」

変身、いや変形を終えたのか、ヤマグチだったものは大きな雄叫びを叫んだ。

既に両手に打ち付けられていた楔は砕かれ、両足の楔は今にも外れそうになっている。

一体どうすればいいんだ!?

今ここで空間を閉じればこいつがそもまま大学に現れて、建物が滅茶苦茶になってしまう!

(こうなったらあれをここで何とかするしかないわね...

ここは君の内心そのものでしょう?これになりたい、あんなことがしたいという希望が叶えられる場所。

皆を救うために自分が何をすべきか。

内なる可能性を以て、人の人たる力と優しさを世界に示す。
今を超える力、可能性という内なる神を示してごらん。)

彼女の声に導かれるままに、僕はたった一つの方法をイメージする。


www.youtube.com

 

『私のたった一つの望み』……『可能性の獣』……『希望の象徴』.....

これであいつが倒せないかもしれない.....失敗してしまうかもしれない....

僕は左手をフォアグリップを握る位置に、右手を持ち手のある位置に付ける。

そして、頭の中でイメージする。あの怪物を倒すことができる、絶対最強の武器。

それでも!ビームマグナムなら!!

次の瞬間、僕の両手は漆黒の銃砲を握っており、キュィィィィィンンという鈍い音と共にエネルギー粒子のチャージが始まった。

チャージが完了するまで30秒もかからないが、それまでに両足の拘束具が取れてしまえ一貫の終わりだ。

チャンスは一度だけ。照準が外れないよう、目の前の怪物を見据えつつグリップと持ち手をしっかり握りしめる。

1秒1秒が永遠にも感じられた。

(どんな結末になったとしても、私はそれを受け入れる。だから、思い切りいきましょう)

ありがとう。お姉さんや皆がいたからこそ、僕はここまで来ることができました。

だから、もう一度だけ力を貸して下さい

(君が望むのなら、私は何度でも)

 

怪物の拘束具が両足とも破壊されるのと同時に、マグナム弾のチャージが完了した。

こちらへ向かおうとする怪物に対し、僕は引き金を迷わず引く。

(これで終わりです!ヤマグチ教授!!)

「亡霊は、暗黒に帰れっ!」

銃口から紫電の光束が一直線に放たれ、怪物の心臓を直撃する。

光はそのまま胴体を焼き尽くし、怪物は断末魔を上げることもなくたちまち行動を停止した。

f:id:unknown39:20220213180222j:plain

イメージ画像

 

「やったのか....?」

(急いで!!怪物の爆発に巻き込まれたら、いくら貴方でも一たまりもないわ!!)

彼女の声に我に返り、僕は今度こそこの空間を閉じる。

飛行機の墜落でビルが崩れ去る際の衝撃音に似た轟音が聞こえたのもつかの間、現実の空間に引き戻される奇妙な感覚を味わった。

彼女の声はもう聞こえない。

 

 

(答案例)

設問1、小問(1)
1(1) 以下の理由から、5000万円がAの平成18年分の譲渡所得(所得税法(以下、所法と略す)33条1項)の金額の計算上、総収入金額(所法36条1項)に算入される。
(2) 譲渡所得課税の趣旨は、資産の値上がりにより所有者に帰属する増加益を所得とし、資産が所有者から離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税することにある(判例同旨)。かかる趣旨からすれば、所法33条1項の「資産の譲渡」は、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為と広く解すべきである。
 財産分与(民法768条1項)は、分与義務を負う離婚の一方当事者が他方当事者に対して資産を移転させる行為であり、これにより一方当事者は分与義務の消滅という経済的利益を享受する。したがって、財産分与は「資産の譲渡」に該当し、所得の額は分与対象となった資産の時価となる(名古屋医師財産分与事件判決)。
(3) 本件においては、AのAB間の財産分与の対象となった本件土地の時価5000万円が譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入される。
2(1) Aは、平成12年12月31日に本件土地を4000万円で取得しているから、4000万円が「資産の取得に要した金額」(所法38条1項)として、取得費(所法33条3項)となる。
 したがって、Aの譲渡所得の金額は、5000万円から取得費の4000万円と特別控除額50万円(所法33条3項及び4項)を控除した950万円となる。
(2) そして、Aは平成12年12月31日から5年以上本件土地を所有していたことから、課税標準は950万円の二分の一である475万円になる(所法22条2項2号及び33条3項2号)。
設問1、小問(2)
1(1) BはCに対し、本件土地を対価5500万円で譲渡している。この5500万円が、Bの譲渡所得の金額の計算上総収入金額に算入される。
(2) BはAからの財産分与で本件土地を取得している。財産分与によって被分与者の財産分与請求権は喪失するのであるから、資産の取得費は財産分与請求権の額と解すべきである。
 本件において、Aが引き渡した本件土地の価額は財産分与の額として適正とされるため、Bの財産分与請求権の金額は5000万円である。これが本件土地の取得費となる。
2 Bの譲渡所得の金額は、5500万円から5000万円と特別控除額50万円を控除した450万円である。BがCに本件土地を譲渡したのは財産分与の時から2年後であり、Bの所得は短期譲渡所得(所法33条3項1号)に該当する。そのため、450万円が課税標準となる(所法22条2項1号)。
設問2
1(1) 事業所得(所法27条1項)における必要経費は、「総収入金額を得るために直接要した費用」(所法37条1項前段)又は「所得を生ずべき業務について生じた費用」(同項後段)である。
 確かに、Cが生花の専門学校へ通学したことで生花の技能が向上し、生花をQ鍼灸院に飾って以降同店の売上が上昇している。しかし、専門学校への進学及び学費の支出は、同店の経営やリラクゼーションの施術に不可欠ではない。よって、費用の直接性が認められず、学費は所法37条1項前段の費用に該当しない。
 もっとも、生花の専門学校への通学及び学費の支出は、上記の売上上昇の事実からQ鍼灸院の設備投資と評価できる。よって、同店の経営等の業務に関連するといえ、学費は所法37条1項後段の費用に該当する。
(2) Cは、元々趣味の目的で生花の専門学校に通学していた。そのため、所法37条1項の「別段の定め」である同法45条1項1号によって必要経費への該当が否定されるか問題となる。
 同号が家事費及び家事関連費を必要経費から除外した趣旨は、そのような費用は消費のための費用であり、所得稼得のための支出である必要経費とは峻別されるべきものであることによる。本件の専門学校の学費は、所得稼得の要素と趣味という消費活動の要素が混在している支出といえ、家事関連費に該当する。
 よって、生花の専門学校の学費は所法45条1項1号が適用されるため、必要経費に該当しない。
2(1) 次に、はり師及びきゅう師の国家資格取得のための専門学校に支払った学費は、所法37条1項の費用に該当するか検討する。
 Cは上記の国家資格を有していないが、国家資格を持つ者を雇用することでQ鍼灸院の経営等を現に行っている。そのため、専門学校への通学及び学費の支出は事業の継続にとって不可欠ではないため、同項前段の費用に該当しない。
 また、専門学校への通学は平成27年分の所得稼得に寄与していない以上、Q鍼灸院の経営等の事業に関連しないとも思える。しかし、所法37条1項後段は、所得稼得の直接性を要件としていない。国家資格取得のための通学は、経営する同店の事業拡大の点で業務との関連性が認められるため、同項後段の費用に該当する。
(2) そして、CはQ鍼灸院の事業拡大のための資格取得のみを目的として専門学校に通学している以上、学費は所法45条1項1号の家事費及び家事関連費に該当しない。学費は事業所得における必要経費に該当する。
設問3
(1) 本件建物の居住用の部屋の賃料収入は不動産所得(所法26条1項)に該当するが、この所得がCの相続人であるD及びEに対しどのように「帰属」(所法12条)するか。
(2) 経済的利益の帰属を実質的に判断することは困難であり、また人的帰属の判定においては納税者の予測可能性や法的安定性を無視することはできない。そうだとすれば、形式的な法律関係と実質的な真実の法律関係が異なる場合所得は法律上の真の権利者に帰属すると解すべきである。
 本件において、賃料収入はD名義の銀行口座に振り込まれており、口座契約上はDに賃料収入が帰属すると思える。しかし、Cが生前所有していた本件建物は相続財産であり(民法898条1項、249条1項及び250条)、相続財産の賃貸によって発生する賃料収入は、遺産とは別個の財産として共同相続人の相続分に応じ各相続人が確定的に取得する。DとEの相続分はそれぞれ二分の一となる(民法900条1号及び4号)から、賃料収入はDとEに二分の一ずつ帰属することになる。
(3) よって、不動産所得である令和2年分の賃料収入は、DとEに二分の一ずつ帰属する。

以上

 

ーーー

最終話(令和3年第2問)→2月中には挙げたいね

*1:谷口・328頁

*2:谷口・329頁

*3:谷口・329頁

*4:谷口・251頁以下

*5:最判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁