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【税法ガール】第4話 路地裏のうさぎ(平成29年第1問)

前回(平成28年第2問)↓

lawschoolreport.hatenablog.com

 

ーーー

『次は~蛍池蛍池~。大阪空港、千里、中央方面へは、大阪モノレールにお乗り換え下さい。出口は、左側です』

自宅の最寄り駅への到着を告げる車掌のアナウンスが流れるのと同時に、この二日間で溜まった疲れと眠気が一気に襲ってきた気がした。

 

今日は7月11日。僕は昨日から二日間、予備試験の論文式試験を受験した。短答式試験は正直落ちたと受験後に確信していたので、合格点ギリギリの成績通知書を見た時は大変驚いた。

本来は論文式試験合格に向けて勉強すべきだが、ローの課題や期末試験の勉強に追われていたため実務基礎科目も含めて論文対策を十分に行うことができなかった。途中答案こそ免れたものの、手ごたえは全くなく参加賞の法文を貰うためだけにわざわざ10時間以上拘束されたようなものだ。

 

(とにかく、これで期末試験の対策に集中できる。初日の刑訴で単位を落とさないようにしないとな。)

ローの先輩によると、毎年2年生の3割弱が必修の刑事訴訟法の単位を落とすことになるらしい。帰ったら試験範囲の百選解説を見直すか、そもそも範囲は全範囲だっけ...等と考えながら改札口へと続くエスカレーターを上り、ICOCAを財布から取り出そうとすると――――

 

「あわわっ、あわわっ、どどどどどどうしよう.....財布、私の財布がががっがが....」

僕の雇用主が挙動不審になって改札の周りをうろうろしていた。

彼女はこちらに気付いていないようだが、無視して通り過ぎるのは後々マズいことになりそうな気がする。

「お姉さん、こんにちは。どうかしましたか?」

偶然の再会を装いつつ、僕は声を掛ける。

 

ーーー

「ほんっとーにありがとうございます!!!君は私の一生の恩人だよ!!!」

「いえいえ、これくらい何てことありません。」

僕とお姉さんは並んで駅のコンコースを歩いている。彼女は市内に買い物を行って帰ってきたが、改札前で切符の入った小銭入れを無くしてしまったらしい。

それなら駅員に問い合わせればいいと思ったが、今日に限って駅の窓口が閉まっており、また携帯電話も自宅に置き忘れたそうだ。

結局僕は隣の駅に電話し、来てくれた駅員の人に事情を話して片道運賃を代わりに払ってあげた。

 

「命の恩人である君に何かお礼をしたいと思ってるんだけど、今時間空いてる??」

お姉さんが急に僕の前に飛び出して、両手を後ろで組みながら訊ねてくる。

すると、ぐぅぅぅ~~~~と予定調和のように横腹の虫が鳴った。今日かなり頭を使ったからなあ。

「あはは。今お腹空いてるよね?二日間も答案書いていたらそりゃそうなるってw

今日はお姉さんが何でも奢ってあげる!予備試験お疲れ様会するから、私に着いてきて!」

そう言ってお姉さんは出口へと走り出した。僕はアルバイトで予備試験を受験していることを一言も喋っていないんだが...

 

駅前の十字路を抜けて、ショッピングモールの横の路地に入り、3分程歩くとレトロな雰囲気を醸し出すベージュの建物が見えてきた。看板やメニュー表を見たところ、どうやら喫茶店らしい。

「CAFE STELLA...?こんな所に喫茶店があったんですね。」

「最近できたんだけど、パンケーキとオムライスが美味しいの。あと店員さんが皆可愛いのも評判になっているわ。この店はインスタグラムやツイッターで結構情報発信していて、特に若い女性が沢山来ているそうよ。」

なんか場違いな気がするな...そもそも女性とこういう店に来たことないし。どうしても緊張してしまう。

「まー取り敢えず入りましょ!」そう言ってお姉さんは後ろから僕の背中を押してくる。

「分かりましたって!」意を決して僕はドアを開けた。

 

 

いらっしゃいませー!

カランコロンとドアチャイムの鈴の音を聞くと同時に、ウェイトレスの明るい挨拶で出迎えられる。

「二名様でしょうか?奥のソファー席にご案内しますね!」

青い制服を着た銀髪の女性に席を案内される。留学生のアルバイトだろうか?

お姉さんと向かい合って席に座ると、先程のウェイトレスの人がメニュー表を持ってきてくれた。

「ご注文が決まりましたら、いつでもお呼び下さい。」そう言って奥へ戻っていった。

「今日は何にしようかな~。オムライスもいいけど、カルボナーラも美味しいのよね!食後はイチゴのパンケーキ...いやでもレアチーズケーキも捨てがたいわ!!!」

メニュー表を行ったり来たりしてお姉さんが独り言を呟いている。どうやら機嫌は元通りに戻ったらしい。

「何かおススメはありますか?」僕は尋ねる。

「そうね...一番のお勧めはオムライスかしら。雑誌にも「ステラに来たらまずオムライス!!」って紹介されていたし。私がカルボナーラを頼んで、分け合いっこしない?」

「いいですね、それ。なら僕はオムライスにします。」

5分後、僕たちはウェイトレスの人を呼び注文を行った。

 

「確認しますね。お飲み物が、ジャスミンティーとコーヒーが一つずつ。カルボナーラが一つと、オムライスのLサイズが一つ。食後のデザートに、イチゴのパンケーキが一つと、モンブランが一つ。以上で宜しいでしょうか?」

黄色の制服を着たウェイトレスの方が復唱する。

「はい、お願いします。」

「ありがとうございます!少々お待ちください。」彼女は足早に厨房へ向かっていった。

 

「時間かかりそうだし、平成29年の第1問をここで検討しましょうか!」

お姉さんはお冷を一口飲んで、鞄からガサゴソと本やらレジュメやらを取り出そうとする。

「ここでするんですか!?」食事を奢ってもらう手前断ることはできないが...

 

 甲市では,住民有志により結成された実行委員会が,町おこしの一環として,落ち武者伝説をテーマにした「甲隠れ里祭り」の開催を企画していた。この祭りは,地域の旧跡を保全するとともに,その魅力を多くの人にアピールし,甲市の全国的な知名度を向上させることを目的としていた。
 甲市の住民であるXは,この企画に賛意を示し,自らが営む文房具店の在庫から事務用品(時価20万円相当)を実行委員会に贈与することを決め,引き渡した。
 他方,甲市で旅館業を営んでいた株式会社A(以下「A社」という。)も,この企画に賛意を示し,実行委員会に対して協賛金200万円の支出を行った。実行委員会は活発な宣伝活動を行い,全国ニュースにも取り上げられたため,市外からの観光客も多く集まって,祭りは盛況であった。なお,「甲隠れ里祭り」の宣伝に際しては,X及びA社を含め,協賛金等を拠出した者の名前等は全く明らかにされなかった。
 祭りの後,A社の代表取締役社長であるYは体調を崩して入院した。Yは,親から社長を引き継いで以来,経営不振に陥った近隣の旅館を買い取ってファミリー向けに改装し,新たな客層を呼び込むことで,観光客の低落傾向が続く甲市において,むしろ客室稼働率を高めることに成功していた。30年以上代表取締役として精力的に経営を担ってきたYであったが,この入院を機に引退を考えるに至った。そこで,自らは代表権のない非常勤取締役に退くとともに,長男であるZを新たに代表取締役社長として,事業を引き継がせることとした。代表取締役交代については,登記がなされ,また,取引先や従業員にも周知された。この代表取締役の交代を受けて,A社は,Yに対して分掌変更による退職手当の支給を行った。
 Yは,これまで週5日出勤していたところ,上記交代後は出勤も週2日となり,報酬も大幅に減額され,従来の3割程度の支給額にとどまることとなった。それまでYが管理していたA社の印鑑や預金通帳についても,Zが管理することになった。その一方で,Yは依然として取締役会には必ず参加していた。Zも,重要な役職の異動及び給与査定などの人事上の決定や,取引先の選定といった営業上の決定について,度々Yに相談し,その意見に従っていた。
 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。

 

〔設問〕
1 Xが「甲隠れ里祭り」実行委員会に贈与した事務用品については,Xの事業所得における総収入金額の計算上どのように扱われるか。根拠条文と理由を付して述べなさい。
2  YがA社から支給された退職手当は,所得税法上,いかなる所得に分類されるか。退職所得という所得の種類が設けられている趣旨・目的を明らかにした上で,理由を付して述べなさい。
3⑴ A社が行った「甲隠れ里祭り」実行委員会への協賛金の支出は,A社に対する法人税の課税上,どのように扱われるか。根拠条文と理由を付して述べなさい。
⑵ 仮に,A社の社名が,協賛企業として,実行委員会が提供する祭りの専用ホームページ及びパンフレットに表示されていた場合,A社に対する法人税の課税上,協賛金の支出はどのように扱われるか。⑴における結論との異同を踏まえ,根拠条文と理由を付して述べなさい。

 

「まず設問1ね。「事業所得における総収入金額の計算上」という問題文の指示から、解答としては「○○円が事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入される」という形になると思う。必要経費(所法27条2項及び37条1項)については余事記載と評価される可能性があるから、記載はNGね。本問はどうかしら?」

「事務用品はXの文房具店の在庫にあった商品ですけど、委員会に無償で譲渡しているから収入金額に算入される金額はゼロじゃないですか?」

「常識的に考えるとそうなるわよね。結論から言うと収入金額に算入される金額は0円じゃないんだけど、ここは一つ一つ考えてみましょう。

本問から離れて、仮にXが実行委員会に対して事務用品を20万円で譲渡した場合はどうかしら。」

「文房具店の経営が「事業」(所法27条1項)に該当することに特に問題はありません。文房具の販売も当然事業行為に該当しますから、対価20万円が事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されます。」

「そうね!じゃあ次。仮にXが同じ事務用品を自分の店で使用した場合はどうかしら?」

これは...確か前期の税法の授業で習ったやつだな。

「Xが事務用品を自分の店で使用することによって、Xは経理事務への便宜という利益を享受しています。このように、自己が所有する資産の消費や労働からくる利益、すなわち帰属所得に対しては課税されないことが原則です。」

「うんうん!因みに、帰属所得と非課税所得(所法9条)の異同って分かる?」

「帰属所得も非課税所得も、包括的所得概念から共に所得に該当します。非課税所得は所得として実現していますが政策上非課税とするのに対し、帰属所得は市場を介しないため金銭評価が困難であり、本質的に実現することがあり得ないといえます*1。」

「そうね!非課税所得・帰属所得・未実現所得といった概念の意義は一度整理しておくといいかもしれないわね!そのまま続けてくれる?」

「分かりました。自己資産の消費は原則非課税ですが、消費した資産が棚卸資産(所法2条16号)に該当する場合は、例外として所法39条により、その資産の時価相当額が事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されます。棚卸資産が通常時価で有償譲渡されることとの均衡を図るためです。

本件でも、事務用品の時価20万円が収入金額に算入されます。」

「そう!確かに同じ資産を他人に売るか自分で使うかによって処理が180度違ってくるのは不公平だものね。ここまで解答できるなら設問1も解答できそうだと思うんだけど....」

確かに本問のXによる委員会に対する贈与とX自身による使用は、無償で事務用品を処分している点で類似している。何か条文は無いかスマホ所得税法の条文を探していると――

 

所法40条1号ですかね?39条の隣にあるのに何で気付かなかったのか...」

「大正解!!設問1は、所法40条1号を趣旨と一緒に指摘してあてはめれば解答として必要十分だったのよ。今貴方が説明してくれた帰属所得の内容に触れることは必須だけどね。

設問1のように、条文を指摘できるかで勝負が決まることが多いのも租税法の問題の特色だから、知ってる条文の近くに何か適用できそうな条文が無いか、頑張って探すことも必要になるわ。さて、次は設問2ね。」

 

「設問2は、お馴染みの所得分類問題ね。とはいえ、問題文に「退職所得という所得の種類が設けられている趣旨・目的を明らかにした上で」というあからさまな誘導が記載されてる以上、退職手当の退職所得(所法30条1項)該当性を端的に問題提起として指摘すればいいわ。所法30条1項を指摘した後はどうすればいいかしら?」

「退職所得該当性判断のための規範を定立します。具体的には、同条の「一時に受ける給与」「これらの性質を有する給与」の解釈を行います。10年退職事件判決【40】は、「一時に受ける給与」該当性の要件として

➀退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること

➁従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること

➂一時金として支払われることを挙げています。そして、当該給与が形式的には各要件のすべてを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合している場合には「これらの性質を有する給与」に該当することを判示しています。」

「素晴らしいわ!10年退職事件の最高裁判決は退職所得を規定した法の趣旨※から言ってくれた規範を導いているから、規範定立については正直同判決の判示部分をコピペしてしまってもいいくらい。大事なのは、「一時に受ける給与」と「これらの性質を有する給与」の部分を必ず分けること。そもそも30条1項の文言を用いていなかったり、両者を分けたりしていないと判例の理解がおろそかになっているとして、評価がそれだけで悪くなりかねない。」

 

※趣旨の判示部分

 思うに、所得税法が、退職所得を「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」に係る所得をいうものとし(三〇条一項)、これにつき所得税の課税上他の給与所得と異なる優遇措置を講じているのは、一般に、退職手当等の名義で退職を原因として一時に支給される金員は、その内容において、退職者が長期間特定の事業所等において勤務してきたことに対する報償及び右期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質をもつとともに、その機能において、受給者の退職後の生活を保障し、多くの場合いわゆる老後の生活の糧となるものであるため、他の一般の給与所得と同様に一律に累進税率による課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとしたのでは、公正を欠き、かつ、社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから、かかる結果を避ける趣旨に出たものと解されるのであって、従業員の退職に際し退職手当又は退職金その他種々の名称のもとに支給される金員が、所得税法にいう退職所得にあたるかどうかについては、その名称にかかわりなく、退職所得の意義について規定した同法三〇条一項の規定の文理及び右に述べた退職所得に対する優遇課税についての立法趣旨に照らし、これを決するのが相当である。

 

「規範定立はいいとしても、本問はあてはめが勝負といえそうですね。事実が他の設問と比べて多く載ってますし。」

「おそらく問題作成者は、自己の結論にプラスに働く事実のみを引き写してマイナスに働く事実を無視する「独りよがりなあてはめ」ではなくて、両方の事実を拾って総合的に評価するあてはめを期待しているんだと思う。一見難しそうだけど、要はマイナスに働く事実も拾って、自己の結論に影響を与えないと否定すればいい

まずは事実をプラス/マイナスに振り分けてみましょう。プラスの事実を理由と一緒に抜き出してもらえるかしら?」

「・Yが30年以上代表取締役として精力的に経営を担ってきたことは、退職手当が長年の勤務に対する報償であることを裏付ける事実として、要件➁該当性を肯定できそうです。・代表取締役交代の事実が登記され周知された事実は、経営者の立場から降りたことが客観的に認められる事実として使えそうです。・出勤が週5日から週2日になった事実、・報酬が従来の3割程度に減額された事実及び・印鑑や預金通帳の管理は新代表取締役Zが管理するようになった事実も同様です。」

「いいわね!次はマイナスの事実を抜き出してもらえる?」

「・Yが代表権のない非常勤取締役に就任した事実は、Yが未だA社を退職していないことを意味するので、要件➀該当性を否定しそうです。また、・取締役会にYが出席している事実及び・ZがYの経営上の意見に従っている事実は、Yは依然としてA社の経営に深く関与していることを意味します。」

「うんうん!事実の抜きだしはこれくらいでいいと思う!あてはめとしては、要件➀不充足を理由に「一時に受ける給与」を否定。本問の事実から実質的に要件➀が充足されるかは判断が分かれるかな。

仮に退職所得該当性を肯定する場合は、従来の雇用条件が雇用関係の終了と同視できるくらい変更されていると評価した上で、取締役会出席は取締役の義務であること及びZに最終的な経営決定権があると述べてマイナスの事実を否定することになる。

退職所得該当性を否定する場合は、給与所得(所法28条1項)該当性を肯定するのが筋ね。これで設問2は終わり!」

 

 

「この紅茶美味しいわね~。茶葉にもこだわってるって聞いたから、今度私も買ってみようかしら。」

先程ウェイトレスの人が持って来てくれたダージリンティーを啜りながらお姉さんが言う。

僕はブラックコーヒーを注文した。普段飲んでいるインスタントと違って、苦みが抑えられてて飲みやすく感じる。

ちらっとコーヒーを淹れてくれたピンクの制服を着たウェイトレスを見ると、控えめに会釈を返してくれた。お姉さんの手前口に出すことは憚れるが、メイド服が似合う美人な女性だと思う。

 

「さあ設問3を検討しましょう。小問は(1)と(2)に分かれてるけど、論点は一緒だから一緒くたにやってしまうわ。協賛金の支出は法人税法上どうなりそう?」

お姉さんの質問で現実に引き戻される。

「協賛金の支出費用は、「一般管理費その他の費用」(法法22条3項2号)に該当するため、A社の所得の計算上200万円全額が損金の額に算入されるともいえそうです。

ですが、協賛金の支出は実行委員会に対する「金銭」の「贈与」といえますので、200万円が「寄付金の額」(法法37条7項)に該当し、法法22条3項の「別段の定め」である同法37条1項に基づき、200万円の内損金算入限度額を超える金額は損金の額に算入されません。」

「そうね。37条1項が損金算入を制限する趣旨は書くべきかもね。ありがちなミスは、同項を理由に全額損金算入を否定しちゃうこと。「政令で定めるところにより計算した金額」は算入が認められるけど、施行令が記載されていない以上貴方の解答で十分だと思うわ。」

普段の勉強の成果が表れた気がする。

「小問(2)のように、A社の社名がホームページやパンフレットに表示されていた場合はどう?」

「その場合は協賛金の支出が社名表示の対価と評価できるため、「広告宣伝及び見本品の費用」(法法37条7項括弧書)に該当し、支出費用200万円は「寄付金の額」に該当しません。法法37条1項は適用されず、原則通り全額が損金の額に算入されます。」

「結論はそれで大丈夫かな。いずれの場合も収益獲得に貢献する費用という共通点や、収益との対価性が明確に認められるという相違点を示せば必要十分な解答となりそう。

検討お疲れ様~そろそろ料理が運ばれてくる頃かしら!」

 

 

「奥のソファー席のお客さん、何だか楽しそうに喋ってるね。会話の内容全然分かんないけど。」

「お二人はきっとカップルなんでしょうね~にひひ。」

「ほらほら、料理ができたから運んでくれない?」

「「はーい!!」」

 

(解答例)

設問1
(1) 以下の通り、所得税法(以下、所法)40条1項1号に基づき、事務用品の時価20万円がXの事業所得(所法27条1項)の金額の計算上総収入金額(所法36条1項)に算入される。
(2) 所法40条1項が36条1項の「別段の定め」として帰属所得に課税する趣旨は、棚卸資産(所法2条16号)の自己消費について資産の時価譲渡を行った場合と均衡を図る必要がある(所法39条)ところ、贈与や遺贈は所有者の所有者の自由意思による処分として消費と同視できる点にある。
 本件において、Xが「贈与」した事務用品は文房具の在庫商品であり棚卸資産に該当する。そして、「贈与」の相手方である実行委員会はXの相続人ではないため所法40条1項1号括弧書に該当しない。よって、本件では同項が適用される。
設問2
(1) 退職手当はYのA社代表取締役交代を受けてYに支給されたものであり、退職所得(所法30条1項)に分類されるか問題となる。
(2) 所得税法が給与所得(同法28条1項)と区別して退職所得を設け、また独自の所得控除(同法30条2項及び3項)を認める等して優遇した趣旨は、退職所得が退職者の長期間勤務に対する報償及び期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質を持ち、退職者の生活を保障するという機能を有するため、累進税率による高額の税負担を避け公平を図る点にある。
 上記趣旨からすれば、同条1項の「退職手当・・・その他の退職により一時に受ける給与」にあたるというためには、➀退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、➁従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること及び➂一時金として支払われることの要件をみたす必要がある。
 また、同項の「これらの性質を有する給与」にあたるといえるためには、実質的には各要件の要求するところに適合すること、すなわち勤務関係の終了という事実に匹敵するような勤務関係の内容・条件等の変更があったという特別の事実関係がある場合に支給される給与であることが要求される(以上、10年退職事件判決)。
(3)ア これらを本件についてみるに、Yに対して支給された退職手当は前述の通りA社代表取締役交代を受けたものである。Yが30年以上代表取締役として精力的に同社の経営を担ってきた事実を考慮すれば、Yの長年の勤務に対する報償と評価できる。そのため、要件➁はみたされる。そして、退職手当は代表取締役交代の際に一回限りで支給されているから、一時金と評価でき要件➂もみたされる。
 しかし、退職手当受給後もYは、非常勤取締役としてA社に勤務し同社を退職していない。よって、要件➀はみたされず「退職手当・・・その他の退職により一時に受ける給与」にあたらない。
イ では、「これらの性質を有する給与」にあたるといえるか。Yは代表取締役交代前までは週5日出勤しているが、交代後は週2日となり勤務時間が半分以上減少している。また報酬支給額も従来の3割程度にとどまっており、A社の印鑑や預金通帳の管理も新代表取締役Zに任せている。このような勤務関係の内容及び条件の著しい変更は単なる役職の変更にとどまらない、勤務関係の終了という事実に匹敵するといえる。
 確かにYは交代後も依然として取締役会に必ず出席し、またZに対して人事上及び営業上の決定に関する意見を述べる等してA社の経営に携わっているといえる。しかし、非常勤といえども取締役が経営方針を決定する場である取締役会に出席することは役職上当然求められる行為であること、A社の最終的な経営決定権はZに認められること及び経営決定がYの意見に合致することはYが長年経営に成功してきたことから合理性が認められることを考慮すれば、A社の経営に関与している事実は結論を左右する事情とはいえない。
 よって、退職手当は「これらの性質を有する給与」にあたる。
(4) 以上より、本件退職手当は退職所得に分類される。
設問3、小問(1)
(1) 以下の理由から、本件では法人税法(以下、法法)37条1項が適用され、協賛金支出の費用200万円の内損金算入限度額の範囲(同項参照)でA社の所得金額の計算上損金の額に算入される(同法22条3項2号)。
(2) 法法37条1項が、同法22項3項の「別段の定め」として寄附金の額(同法37条7項)の損金算入を制限する趣旨は、寄附金の損金算入を認めることで企業の社会貢献活動を促進させる利点がある一方、業務遂行上必要な支出か否かの判断が性質上困難であるため恣意的な損金算入を制限して課税の公平を図る必要性に求められる。
 そのため、業務遂行上必要な支出であり収益との対価性が明確に認められる広告宣伝費については、全額損金算入を認めても上記の趣旨に反することが無く「寄付金の額」から除外される(法法37条7項括弧書)。広告宣伝費該当性は、支出の対価として提供された役務が客観的にみてその受け手である不特定多数の者に対し、当該法人の事業活動の存在を訴える宣伝的効果を意図して行われたと認められるかという観点から判断する。
(3) 本件における、A社の実行委員会に対する協賛金の支出は、法法37条7項の「金銭・・・の贈与」に該当する。そして、実行委員会は「甲隠れ里祭り」の宣伝に際しA社を含めた協賛金支出者の名前等を明らかにしていない。そのため、実行委員会は支出の対価としてA社の宣伝行為を何ら行っておらず、協賛金は広告宣伝費に該当しない。
 よって、協賛金200万円は「寄付金の額」に該当し、37条1項が適用される。
設問3、小問(2)
(1) 以下の理由から、協賛金200万円全額が法法22条3項2号に基づきA社の所得金額の計算上損金の額に算入される。
(2) A社が実行委員会に対して協賛金に支出を行った点は小問(1)と同様であるが、本件では実行委員会が「甲隠れ里祭り」の協賛企業としてA社の社名を祭りの専用ホームページやパンフレットに表示した点で異なっている。実行委員会は協賛金支出の見返りとしてこのようなA社の宣伝行為を行ったと推測されるから、役務の支出との対価性が認められる。また祭りの参加者等がA社の地域貢献活動を外部から認識することができるため、A社の事業活動の宣伝的効果も認められる。
 したがって、協賛金は広告宣伝費に該当し、「寄付金の額」に該当しない。法法37条1項は適用されない。

以上

 

ーーー

後半へ続く

次回(平成29年第2問)→来週は忙しいので再来週以降 週末に更新できるかも

司法試験に落ちてた場合は打ち切りになるので読者兄貴姉貴は私の合格を祈って下さい。

合格したので更新しました↓

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*1:谷口・206頁