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【税法ガール】第12話 ノーネーム②(令和2年第2問)

前回(問題文記載)

lawschoolreport.hatenablog.com

 

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「まずは設問1を検討しよう。小問(1)は、B社が本件役員給与を損金に算入できる場合の根拠規定・趣旨・適用関係を答えさせる問題だ。君はどう考える?」

役員給与の損金算入の論点は、既にやった論点だ。ここで評価を落とす訳にはいかない。

「役員給与もそうですが、従業員の給料は法人税法22条3項2号の「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用」に該当します。そのため、役員給与は同号に基づいて損金に算入できることが原則です。」

「原則を指摘できているのはいいね。因みに販管費の定義は何だい?」

「明確な定義があるという訳ではありませんが、敢えて定義づけるならば「原価を除いた会社の販売及び一般管理業務に関して発生したすべての費用*1」となるのでしょうか。」

「いい回答だ。「その他の費用」と合わせて、2号は損金算入のバスケット・カテゴリーと評価できる。話を戻すが、根拠規定は2号だけで終わりかい?」

「いいえ。例外的に役員給与の損金算入を規制するのが、法法34条1項です。会社法361条1項が取締役報酬の決定方法を株主総会決議に委ねているように、役員報酬については役員自身が不当に報酬額を設定・増額する「お手盛りの危険」が指摘されます。役員報酬は損金に算入することができる以上、報酬を増額させて所得の金額(法法22条1項)を減額し、税負担を軽減させることを適法に行うことができます。しかしこれでは、他の納税者との間の課税の公平を失する結果となります。

そこで、「別段の定め」である法法34条は、損金算入を認めても給与の性質上算入額が過大とならない・他の納税者との間で算入額が不当に高額になることがない役員給与を限定列挙し、これに該当しない役員給与の損金算入を認めないこととしました。」

「今のは法法34条1項全体の制度趣旨の説明だ。本問では、損金算入が認められる根拠規定とその趣旨を解答することが求められている。」

「はい。本件役員給与は、B社の取締役の地位に基づいてAに支給される給与です。この給与の額は事業年度毎に決められており、毎月一定額となっています。

これらの性質から、本件役員給与は法法34条1項1号の定期同額給与に該当するといえます。定期同額給与は、一定期間の間は給与の増額が行われない以上不当に損金の高額算入が行われないといえます。」

「そうすると、根拠規定は法法22条3項2号と34条1項1号になるのかな。小問(1)の解答としてはこれで十分だろう。

次は小問(2)だ。本件規定とされている法法34条2項は、役員給与の金額の内、不当に高額な部分とされる部分について損金算入を認めないとする規定だ。

設問の解答対象外ではあるが、この「不当に高額とされる部分」は

・当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える部分の金額

・定款の規定、株主総会の決議等により役員に対する給与として支給することができる金銭等の支給対象資産に係る限度額等の合計額が、当該限度額等と当該支給対象資産の時価合計額との合計額を超える部分の金額を超える部分の金額

のいずれか多い金額とされている*2。内容については裁判例等で確認した方がいいだろう。

さて、本件で税務署長Eが本件規定を適用して損金算入を一部否認する処分を行うことはできるかね?」

「本件役員給与が法法34条1項1号の定期同額給与に該当するので、本件役員給与は法法34条1項の規制を受けません。それにもかかわらず、同条2項を適用して損金算入を否認することは問題があるんじゃないですか?」

「本件規定括弧書は、「前項」つまり法法34条1項が適用されて損金算入が否認される役員給与に対して、更に損金算入を否認することはしないというものだ。だから、同項が適用されない役員給与に対して別途本件規定で規制をかけることに何の問題もない。

それに、1項で限定列挙された役員給与は類型的に課税の公平を失しないものに過ぎず、実際の場面では金額が不当に高額となることもある。そういった場面に対応するために2項が規定されていると理解しておけばいい。

ここはよく間違えやすいところだが、法法34条1項、2項そして3項の適用関係は整理しておくべきだ。」

「はい。」

ここでミス1か....恐らく許されるミスは多めに見積もって後1つだろう。

もう少し慎重に言葉を選んでいかなければ。

 

「次は設問2だ。小問(1)は本件貸付金の利息の課税関係を問う問題だが、要は利息の所得分類と年度帰属を問うものだ。問題文上特に指示が無ければ、「所得税の計算上どのように扱われるか」の問題はこの二つを解答すればいい。

まず利息の所得分類だが、結論を聞こうか。」

「これは...本件貸付金の利息は事業所得(所法27条1項)に分類されます。」

「なぜ利子所得(所法23条1項)に分類されない?」

「確かに利息と利子は同じ性質を有しますが、所法23条1項の「利子」は、公社債や預貯金等の利子をいいます。これに対し、本件貸付金の利息はAE間の金銭消費貸借契約に基づくものであり、所法23条1項の利子の源泉と性質が異なります。

そのため、利子所得には分類されません。」

「流石に引掛かなかったようだね。それでは、事業所得に分類される理由を聞こうか。」

「はい。事業所得には、当該事業によって直接もたらされる収入の他に、事業に関連する付随的な収入も含まれます。

本件において、Aが個人で行っている冷凍食品の小売販売店の経営は、所法27条1項の「事業」に該当することに疑いはありません。そして、AはEに300万円という大金を低利かつ無担保で貸していますが、これはEの勤務を評価し、かつ介護費用を負担することでEの今後の継続した勤務を期待したことが理由となっています。そうすると、Aの融資は従業員の福利厚生と評価することができ、その利息は小売販売店の経営に関連する付随的収入といえます。」

「結論は事業所得でいいだろう。次は年度帰属の問題だが、これは制限超過利息事件判決【33】の判例を知っていればサービス問題といっていい。

所法36条1項の解釈を示して権利確定主義を説明した後に当てはめに入る方がベストだが、「簡潔に」説明しなさいという指示から、弁済期の到来と共に利息請求権が発生し、確定することを端的に論じればいいだろう。

さて、次は小問(2)だが、Eの死亡の事実をどう考える?」

利息が事業所得に分類される以上、適用すべき条文は絞られてくる。

「Eが死亡したことによって、AはEから元金200万円と利息1万円を回収できなくなっています。このため、貸倒れに関する所法51条2項の適用が問題となります。」

「なるほど。所法51条2項は貸倒れの内容について特に制限していないが、これについてはどう考える?」

「貸倒れについては、似た論点として法法22条3項3号の損失の問題があります。これについては、法法33条1項が資産の評価損の損金算入を認めていないこと、債権の一部が回収できる場合は当該部分について損失が生じたとは評価できないことから金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかであることが必要とされています。

興銀事件判決【58】は、債権全額が回収不能であることが客観的に明らかであるかは、債務者の資産状況や支払能力等の債務者側の事情のみならず、取立費用との比較衡量や回収強行によって生じる他の債権者との軋轢という債権者側の事情も考慮して判断することを判示しています。

類推適用ではありませんが、本問でも興銀事件の考え方を利用していいのではないでしょうか。」

「そうだね。興銀事件が示した考え方は、法人税法特有の考え方ではない以上所法51条2項の解釈として使ってよいと思われる。法法33条1項については、所法37条1項が損失を原則必要経費としていないことに置き換えればいい。結論は、元金利息共に貸倒れと認定できるかな。

設問2については、流石といったところか。」

後は、最後の設問3で決まる。何としても喰らいついていかなければ。

 

「設問3だが、所得額の変化と変化を反映させる手続をそれぞれ答えさせる問題に分かれている。まずは所得税の変化の問題だ。」

「分かりました。本件訴訟は、AG間の冷凍庫付軽自動車甲の売買契約の解除に関するものです。同契約は平成28年末に締結されているため、Aの甲譲渡利益は平成28年分の譲渡所得(所法33条1項)の金額の計算上総収入金額に算入されます。」

「所法33条2項の検討も一応必要だが、まあ本問ではいいだろう。」

「ただ、Gから解除の意思表示を受けたAが敗訴し判決が確定しました。これにより、売買契約は遡及的に消滅し(民法545条1項本文)譲渡利益も無かったことになります。

したがって、Aの譲渡所得に係る所得額は、譲渡利益の額だけ減少することになります。」

「まあここまでは簡単か。じゃあ、Aとしてはこの減少をどのように所得税の計算に反映させればいい?」

 

手続法はこれまで勉強してこなかった。非常にまずい。

答えられなくなるか、回答を誤った瞬間全てが終わってしまう。

僕は10秒考えて、持てる知識を総動員して回答する。

「Aとしては、所轄税務署長に対して更正の請求をすることになります。根拠は、国税通則法の...条文見ていいですか?」

「構わない」

「(ページをめくる)国税通則法の...23条1項です。」

「23条1項か。1項には1から3号があるが、本件ではどれに当たるかね?」

契約解除によって総収入金額が減少するので、1号の課税標準の計算に誤りがあったことにより、納付すべき税額が過大であるときに該当します。そのため、23条1項1号に該当します。」

「そうか。ところで、本件訴訟の判決は総収入金額の減少をもたらす点で、23条2項1号の「更正・・・に係る課税標準又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決」に該当する。

23条2項は、同項各号の要件をみたす限り法定申告期限に関係なく更正の請求を行うことを認める規定だ。ただ、同項の柱書によれば、各号に定める期間の満了日が法定申告期限の満了日の後に到来することが必要となる。

本件訴訟の判決確定は平成30年6月1日であり、23条2項1号の期間の満了日は同年8月1日となる。その一方で、平成28年分の所得税の法定申告期限の満了日は令和3年3月15日だ。このように、23条2項柱書の要件をみたさない以上同項に基づく請求はできないことになるが、このことと1項に基づく請求との関係はどう考える?」

「2項に基づく請求ができない以上、1項に基づく請求はできないと思います。」

 

 

「残念ながら、それは間違いだ。」

教授からの無機質な「死の宣告」とも言うべき言葉に、目の前が真っ暗になる。

「23条2項は、1項の請求期間が経過した後、一定のやむを得ない後発的理由が生じた場合に特別に更正の請求を認める規定だ*3。そのため、1項の請求期間が経過しない内は通常の1項の請求をすることができ、期間制限も同項のものが適用される。

本件では、Aは問題なく23条1項に基づいて請求をすることができるという訳だ。」

設問の解説も、僕の頭には全く入ってこなかった。

何もできずに、永遠に彼女と会えなくなることへの絶望で圧し拉がれる。

「司法試験に対する解答としてが及第点だが、今回は落第ということだ。

君が「彼女」の、いや私の成長を促してくれたことについては感謝する。私は、研究者として高みを目指していかなければならない。」

そう教授は宣言して、右手をこちらに突き出しそのまま親指と人差し指で銃の形を作って見せた。一見するとそれは子供がやるようなごっこ遊びの仕草だ。

しかし、人差し指の先端には白い光がブォォォォンンという不気味な音に合わせて発生し、やがてそれは研究室全体をみたすように膨張し続ける。漫画やアニメでしか見たこともない光景に圧倒され、僕は只そこに立ち尽くすしかなかった。

光の弾が命中すれば、僕はここにいた理由さえ忘れてしまうのだろうか。

 

「往け」

教授が宣言すると、光の魔弾は人差し指を離れ、こちらに急接近していく。

そして、僕の視界は光の闇に包まれた。

 

(答案例)

設問1、小問(1)
1 B社は、本件役員給与を法人税法(以下、法法と略す)22条3項2号及び34条1項1号を根拠に損金に算入し得る。
2(1) 役員給与は法法22条3項2号の「販売費、一般管理費その他の費用」に該当する。もっとも、役員報酬については不当に高額にすることで損金算入額を増額させ、租税負担を軽減するというお手盛りの危険があり課税の公平を欠く恐れがある。
 そのため、恣意的な損金算入を阻止するため、同項の「別段の定め」である法法34条1項は、類型的に見て損金算入を認めても直ちに課税の公平を欠くと認められない役員給与を同項柱書及び各号で限定列挙し損金算入を認める一方、それ以外の役員給与の損金算入を認めていない。
(2) AがB社から支給される本件役員給与は、B社が同社取締役の地位に基づき「支給する給与」(法法34条1項柱書)である。そして、毎月支払われる点で「定期給与」(同項1号第一括弧書)に該当し、金額が事業年度毎に一定である点で「各支給時期における支給額が一定であるもの」(同号)に該当する。
 したがって、本件役員給与は同号の定期同額給与に該当し、同項の適用を受けない。法法22条3項2号に基づき損金への参入が認められる。
設問1、小問(2)
1 以下の理由から、Hが本件規定に基づき本件役員給与の一部損金算入を認めることは適法である。
2(1) 本件規定括弧書の「前項・・・の適用があるものを除く。」の規定の意義は、法法34条1項又は3項の適用を受けて損金不算入となる役員給与については、別途本件規定を適用させて損金不算入としないことである。そのため、法法34条1項又は3項が適用されない役員給与に対し別途本件規定を適用することは、何ら差し支えない。
(2) 前述の通り、本件役員給与は法法34条1項の適用を受けず、また同条3項の適用も受けない。よって、本件規定を適用することができる。
設問2、小問(1)
1 以下の理由から、本件貸付金の利息は、Aの事業所得(所得税法(以下、所法と略す)27条1項)の計算上、既に収受した分は平成26又は27年分の総収入金額(所法36条1項)に、見収受の分は平成28年分の総収入金額に算入される。
2(1) 貸付金の利子は金銭消費貸借契約に基づき支払われる所得であるから利子所得(所法23条1項)ではなく、貸付金の態様により事業所得又は雑所得(所法35条1項)に分類される。
 本件貸付金は、Aが経営する店舗の従業員Eに対し、長年の勤務に対する行賞及び福利厚生として低利無担保で300万円を貸し付けるものであり、小売販売業に関連するといえる。よって、本件貸付金の利子は事業所得に分類される。
(2) 所法36条1項の「その年において収入すべき金額」という文言は、収入すべき権利が発生しかつ確定した時点の属する年度に帰属すると解すべきである(判例同旨)。
 本件貸付金の利息請求権は、元金の支払期限の到来と共に発生し、金額が確定する。したがって、利子の収受の有無にかかわらず事業年度毎に所得が帰属することになる。
設問2、小問(2)
1 以下の理由から、平成28年にEが病死したことにより本件貸付金の元本200万円及び未払の利子1万円が所法51条2項に基づき、Aの同年の事業所得の金額の計算上必要経費(所法37条1項)に算入される。
2(1) 前述の通り、本件貸付金はAが営む小売販売業に関連し、元本及び利息債権は「事業の遂行上生じた・・・債権」に該当する。そして、所法は損失の必要経費算入を原則認めておらず、「別段の定め」である51条以下の規定に基づき例外的に算入を認めていることからすれば、所法51条2項の「貸倒れ」は債権全額の貸倒れと厳格に解すべきである。
 そして、債権が全額貸倒れたかの判断は、債務者の資産状況や支払能力といった債務者側の事情のみならず、債権回収の現実的可能性等の債権者側の事情をも考慮する(興銀事件判決参照)。
(2) これを本件についてみるに、債務者のEに貯金が無く、めぼしい財産も無い等弁済のための資産は見当たらない。また、Eやその両親は死亡しており、Eに子はいないことから、Eの相続人に対して債務を取り立てることもできない。
 そして、前述の通りAはEの勤務の行賞として300万円を貸与したのであるから、そのような貸与金をAが殊更に回収することは通常想定されない。以上を考慮すれば、AのEに対する債権は全額が貸し倒れたと評価できる。
(3) よって、Aは所法51条2項に基づき、債権全額を必要経費に算入できる。
設問3
1 所得額の変化
(1) 本件訴訟の確定により、Aの平成28年分の譲渡所得(所法33条1項)に係る所得額が譲渡利益額の分だけ減少する。
(2) AのGに対する冷凍庫付軽自動車甲の譲渡(以下、甲譲渡契約と略す)は「資産の譲渡」(所法33条1項)に該当し、また同項2項に該当しないためこの譲渡利益は譲渡所得に分類される。
 そして、甲譲渡契約の解除が平成30年6月15日の本件訴訟判決の確定により確定したことから、解除の遡及効民法545条1項本文)により上記譲渡利益は平成28年中に発生及び確定しなかったことになる。
2 所得税の計算に反映させるための手続
(1) Aは、甲譲渡契約の譲渡利益分だけ課税標準等の計算に誤りがあったとして、法定申告期限(所法120条1項)である平成29年3月15日から5年以内(以下、本件期限と略す)に、国税通則法23条1項1号に基づき、所轄税務署長に対して更正の請求をすることが考えられる。これにより、自己の所得税の計算に所得額の減少を反映させることができる。
(2) 本件訴訟の判決は、「課税標準又は税額等の計算の基礎になった事実に関する訴えについての判決」(同条2項1号)に該当するため同号に基づいて請求をすべきと思われるが、同号の期間満了日が本件期限よりも先に到来するため同項柱書第二括弧書に抵触する。
 もっとも、同項は、同条1項の請求とは別に納税者に対して請求を認める規定であるから、同条1項の請求をすることを妨げない。
(3) また、同条1項柱書第二括弧書より、Aは平成29年12月の増額更正処分後の課税標準等について更正の請求を行うことができる。

以上

 

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次回(令和3年第1問)

 

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*1:谷口・391頁

*2:法施令70条1号、谷口・449頁

*3:谷口・139頁