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【税法ガール】第1話 はじまりの季節➀(平成28年第1問)

新たなる黒歴史が、また1ページ―――――――

 

司法試験(及び来年以降の予備試験)で租税法を選択する兄貴姉貴は、一度問題読んで答案構成してから読んだ方がいいかもしれない

それ以外の方はお好みで

 

【おことわり】

・問題文は出題された当時のまま掲載していますが、解説は記事作成当時施行されている法令に沿って行います

判例通称名の後ろについてある

【数字】→中里実ほか編『租税判例百選 第7版』(有斐閣、2021年)の事件番号

<数字>→金子宏ほか編著『ケースブック租税法 第5版』(弘文堂、2019年)の頁番号

 

・その他凡例

所法 所得税法

所法令 所得税法施行令

法法 法人税法

法法令 法人税法施行令

国通 国税通則法

ーー

谷口 谷口勢津夫『税法基本講義 第6版』(弘文堂、2018年)

金子 金子宏『租税法 第二十三版』(弘文堂、2019年)

 

・この小説はフィクションであり、実在する団体・学校・人物等とは、一切関係がありません。なお故意責任の本質は反規範的人格態度に対する道義的非難である。

 

 

ーーーーー

導入も何もあったものではないが、今の司法試験の論文式試験では、法律基本科目――憲法行政法民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の7科目――に加え、選択科目が課せられている*1

 

この選択科目の配点は100点と他の法律基本科目と同様で、満点の40%が取れなければ足切り、つまり一発不合格となってしまう。

さらにこの選択科目の試験は、司法試験の初日一発目に実施される。選択科目の(主観的な)出来が非常に悪く、それが後の論文試験に響いてしまった...という失敗談は受験界隈では割と有名だ(逆も然り)。選択科目の対策は司法試験合格にとって避けて通れない関門だろう。

 

選択科目は、倒産法・租税法・経済法・知的財産法・労働法・環境法・国際関係法(公法系)・国際関係法(私法系)の8つ*2

中でもメジャーなのが労働法と経済法で、選択者の割合がそれぞれ全受験者の約3割、約2割を占める*3。これに対し、租税法や環境法、国際関係法(公法系)は選択者は全体の1割に満たず、「マイナー科目」と称されているのが現状だ。

 

・・・等と取り留めも無い無駄な思考を巡らせながら、僕はロースクールの自習室で目の前のA4用紙に印字されたレポート課題と格闘している。

 

僕はこの4月にN大学法科大学院既修者コースに入学した。N大ローの2年前期のカリキュラムは、必修の法律基本科目の講義で殆ど埋まっているが、それ以外の選択必修の講義もいくつか開講されている。司法試験の選択科目に関係する講義は大体選択必修とされ、今学期は労働法、倒産法そして租税法の講義が開講された。

僕は労働法の講義の他に、租税法の講義も履修している。大学でたまたま税法のゼミに入って税法に興味をもったことと、将来の司法試験の選択科目を決定する材料を今の内に集めておきたいと思ったからだ。

 

で、今は5月の中頃。租税法の科目――シラバスでは「税法1」となっていた――では中間試験の代わりにレポート課題が出題された。そして、その課題は実際の司法試験の過去問だった。

担当のヤマグチ教授曰く、「今の君たちの答案作成能力がどれくらいあるのか知りたかった。平常点には入れないから、気軽に取り組んでごらん」という。

だがロー生は皆教授に生殺与奪の権を握られているといっても過言ではない。甘言に縋ることなく丁寧丁寧丁寧に取り組むべきだろう。

 

というわけで、さっそくレポート課題の問題に目を通したのであるが...

 

【注】 本問は,問題文中において特許法上の規定を引用しているが,同法の解釈を問うものではない。
 なお,特許法については,平成二十八年一月二十二日政令第十七号「特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」に基づいて,平成二十八年四月一日付けで「特許法等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第五十五号)」が施行されているが,問題文中で引用しているものは,同改正前の規定である。
 Aは,平成2年4月に食品メーカーであるB株式会社(以下「B社」という。)に入社し,平成3年4月からB社のC研究所に研究員として勤務し,食品の研究開発に従事していた。Aは,C研究所にいた平成17年に健康食品に関する甲という発明を行った。甲は,その性質上 B社の業務範囲に属し,その発明をするに至ったAの行為はその現在の職務に属するものであった (特許法(司法試験用法文を参照。)第35条第1項参照。)。
 B社は,平成5年6月1日付けで,同日以降に従業員がした職務発明について,職務発明取扱規程(以下「本件規程」という。)を定めており,その主要な条項は下記のとおりであった(その後の改訂はなかった。)。
 第1条 職務発明に関する特許を受ける権利(以下「特許を受ける権利」という。)は,会社がこれを承継する。ただし,会社がその権利を承継する必要がないと認めたときは,この限りでない。
 第2条 会社は,従業員がした発明が職務発明であるか否かの認定をし,職務発明であると認定した場合は,その発明について特許を受ける権利を会社が承継するか否かの決定をすることとする。
 第3条 発明を完成した従業員(以下「発明者」という。)は,前条の規定によりその発明者の発明について特許を受ける権利を会社が承継すると決定したときは,その権利を会社に譲渡することとする。
 第4条 会社は,発明者から特許を受ける権利を承継したときは,速やかに出願することとする。
 第5条 特許を受ける権利の承継につき,会社が発明者に対して支払う報償金の時期及び額は以下のとおりとする。
  1 出願したとき 出願報償金 1万円
  2 特許権を第三者に実施許諾し又は譲渡して収入を得たとき 実績報償金 第三者から受領した額の5パーセント
 B社は,平成18年3月,本件規程第1条本文及び第3条に基づき,Aから,甲に係る特許を受ける権利を承継し,同月中に特許の出願をしたため,本件規程第5条第1号に基づき,同月中にAに対し,出願報償金1万円(以下「本件出願報償金」という。)を支払った。平成22年8月,甲に係る特許の設定登録がされた。B社は,平成24年10月,食品メーカーであるD株式会社(以下「D社」という。)との間で甲に係る特許権の譲渡契約を締結し,同月中に代金1億円の支払を受けたため,本件規程第5条第2号に基づき,同年12月,Aに対し実績報償金として500万円(以下「本件実績報償金」といい,本件出願報償金と併せて「本件各報償金」 という。)を支払った。
 Aは,平成25年7月にB社を退社した。Aは,平成26年4月,B社を被告として,本件規程第5条により特許を受ける権利の対価を支払うことは不合理である旨主張し,特許法第35条第3項及び第5項に基づき,「相当の対価」から既に支払を受けた本件各報償金合計501万円を差し引いた残額として4000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。B社は,同訴訟において,本件規程第5条により特許を受ける権利の対価を支払うことは不合理とは認められず,また,仮に不合理と認められるとしても「相当の対価」の額は既払い額501万円を上回ることはない旨主張し,全面的に争った。その後の平成27年12月1日,裁判所の和解勧告に基づき,AとB社との間で,「相当の対価」の残額として2000万円(以下「本件和解金」という。)を支払う旨の訴訟上の和解が成立し,平成28年1月20日,B社はAに対し同額を支払った。
 他方,D社は,B社から取得した甲に係る特許権を利用して乙という健康食品を製造し,平成26年3月から1箱1万円での販売を開始した。D社の創業者であり,その発行済株式総数の70パーセントを所有し,いわゆるワンマン社長として同社の実権を掌握していた代表取締役社長Eは,同年4月,自ら及び家族が使用する目的で,部下に命じて乙50箱(以下「本件食品」という。)を無償で入手し,これを自宅に持ち帰って,その後家族とともに費消した。
 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。
〔設問〕
1⑴  本件出願報償金は,所得税法上,いかなる所得に分類されるか,異なる見解にも言及しつつ自説を述べなさい。また,本件実績報償金が本件出願報償金とは別の所得に分類されるかにつ いても,理由を付して述べなさい。
 ⑵ 本件和解金は,所得税法上,いつの年分のいかなる所得に分類されるか,自説を述べなさい。
2  D社は,本件食品の価額(50万円)を損金の額に算入することができるか,根拠条文と理由 を付して述べなさい。ただし,同族会社等の行為又は計算の否認の規定の適用はないものとする。

 

  問題文が長いことはさることながら、分類の対象である出願報償金や実績報償金が何なのか、いまいちピンと来ない。職務規定が掲載されているから、これも引用して論述しなければならない。「異なる見解にも言及しつつ」という指示といい一見して「めんどくさい」と思わせる問題だ。まぁ、本問でAはB社の従業員とされているから、設問1(1)は適当に給与所得(所法28条1項)とすればよい。でも「異なる見解」って何を書けばいいんだ・・・?

  よく分からないまま答案...ではなくレポート構成をしていると、マナーモードに設定してある手元のスマホが突然振動した。画面には、『TA*4 選考結果のご連絡』という教務係からのメールの表示。

 後で友達に聞けばいいや、と思いすぐに1階の事務室へ向かった。

 

 

「不採用ですか」

「ごめんなさいね...今回希望者が多くて、抽選ってことになったみたい」

 僕はロースクール1年生、いわゆる未修者の必修講義のTAを希望していた。講義の準備に日々追われるロー生にとって、学内のTAは数少ない手軽に金を稼げるバイトだ。

TAの選考は応募者殺到の場合抽選で行われるのが建前となっているが、現実は入試の成績やGPA、担当教員とのコネの有無で決まることが多い。学部は他大学で入試も補欠合格の僕よりも、他の優秀な同級生が優先されるのは至極当然だろう。

 

「別件なんですけど、貴方確かヤマグチ先生の税法の授業取ってたわよね?もしよければ他のやつを紹介しましょうか?」

「税法?今学期の税法1はTA募集していませんでしたが」

「TAじゃないんだけど...一応お手伝いということで。お給料もちゃんと出るらしいわ。私も他の履修者に声を掛けたんだけど、忙しいから皆断ってしまって。」

タダ働きは勘弁したいが、給料が出るならTAでも雑用でも何でもしたいとは思う。僕は事務員さんの提案に承諾し、17時に研究棟5階の503号室に行くよう指示された。

 

 

16時55分。当の503号室のドアの前に着いた僕は、深呼吸をする。

なぜ事務員さんがTAと言わずに「他のやつ」と濁していたのか、なぜヤマグチ先生はTAの募集を隠していたのか、なぜ面接場所が先生の研究室ではないのか・・・等々不審点はなくはない。流石にロースクールが学生の命を取るよいった漫画のような展開は無いと信じたい。

ノックを2回するが、返事は無い。

 

「失礼します。TAの面接の件で伺いました、―――と申します。」

 

意を決してドアを開けると、寂れた古書店によくある書物の山が四方八方に広がっていた。

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「きたねっ」

本音が思わず零れてしまった。積まれている本は、『所得課税の法と政策』『租税回避論』といった税法に関係するものもあれば、『完全自殺マニュアル』『野宿のすすめ』というまず法学研究者の書庫に置いて無いものもあった。

足元には某鬼殺隊の漫画の8巻が。無限列車篇で飽きてしまったんだろうか...

 

本を踏まないよう足元を確認して少し奥へ進むと、ダージリンの甘い匂いが黴臭い匂いに交じって広がってきた。どこか懐かしい香りに先程の緊張が解れた気がした。

そして一番奥の、こちらも全く整理がなされていない机に例の汚部屋の主が椅子に座り、分厚い論文集を開いて作業をしている。女性で、しかも僕とほぼ同世代にみえる。

 

「あの~」僕は女性におそるおそる声を掛けると・・・

 

「わっ!!!今忙しいから話しかけないでっ!!!!!」

 

 

そう叫んだのと同時に、女性は手元の消しゴムをこちらに投げつけてきた。

消しゴムは僕の頭上を通り抜け、後ろにあった本の山の一角に命中。ジェンガのように崩壊しないギリギリのバランスで保たれていたのだろう。背後からグラグラッと不審な音が聞こえた刹那、ドサーーーーッっという音と共に専門書がなだれ込む。

身動きが取れなくなるのと同時に、後頭部に鈍い痛みを感じそのまま意識が遠のいていった。

 

 

 ーーー

「ほんっとーーーにごめんなさい!!!!」

古書に埋もれてしまった体を起こし、例の女性があわわあわわと狼狽えているのを横目に机と椅子二つ分が置けるスペースを何とか作り、隅にたけ掛けてあったテーブルとパイプ椅子をセッティングして現在に至る。

女性が差し出して下さった紅茶を一口啜ると、地面に顔を擦りつけて土下座をしようとしたので慌てて止めさせた。

「私、結構忘れっぽいというか、時間にルーズなところがあるというか...貴方がここに来ることも忘れてしまったの。」

「あーっ、何となく想像つきます」「君ひどくない????(´・ω・`)」

人を呼びつけておいてその態度は何だと思わなくはないが、ローの研究者は大体そんなもんだと納得する。平気で授業に20分遅刻、そのまま休講って教員も中にはいるし。

それに彼女、滅茶苦茶可愛いし...うちの大学に若い女性の教員っていたっけ?

 

「それで、TAの面接の件なんですが・・・」

さっさと用件を済ませようとそう切り出したころ、

「あ~~~その前に、今回のこの件で貴方にお詫びをしたくて。

貴方は今ヤマグチ先生の税法1を履修しているよね?中間レポート課題の問題の勉強会...なんてどうかしら?」

「自主ゼミですか。」

何で僕のことを知ってるんだという疑問は置いておくとして、えらく畏まった謝罪方法だなとは思った。まあ、初対面の男性に「お食事いかがですか?」というのもなんだか気が遅れる。ちょうどレポート課題には困っていたし、院生の先輩の手を借りるのはいいかもしれない。

「分かりました。未熟者ですが、宜しくお願いします。」僕はそう言って一礼すると、

「わっ、そんなに畏まらなくてもいいよー。こちらこそよろしくお願いします。」

と女性ははにかんで応えて下さった。

 

相手の名前が分からないと流石に不便だろうと思い、「勉強会の前に、貴方の名前を教えて頂けますか?」と僕は言った。が、

「えぇっと、...取り敢えず「お姉さん」でいいかしら。」と断られてしまった。

「何か本名を知られたくない事情が有るのでしょうか。...自分でも詮索するのは良くないと分かってはいますが。」

「うーん...プライバシーとかそういうのじゃないんだけど....うーーーん、はっ!これだ!」

10秒ほどお姉さんが人差し指をこめかみに当てて唸り、急に立ち上がってビシッと指をこちらに突き出しこう言った。

 

 

 

「好感度が足りない!!!!!」

ギャルゲーかよ。

 

 

ーーー

導入が長いってそれ一番言われてるから

次回ようやく過去問の解説に入ります

lawschoolreport.hatenablog.com