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【税法ガール】第2話 はじまりの季節➁(平成28年第1問)

前回↓

lawschoolreport.hatenablog.com

 

今回の問題についてはこちらの8~9頁を参照のこと

 

ーーー

こうして二人きりの、お互い名前も知らない(多分向こうは知っていると思うが)者同士の勉強会が始まった。手ぶらでこの部屋まで来たので、お姉さんが問題を印刷して持って来て下さったのは有難い。

 

「早速設問1の(1)を検討しましょうか。まず本件出願報償金はどの所得分類にあてはまると思う?」

「そうですね...問題文でAは平成2年4月にB社に入社し、研究員として勤務しているとあります。そしてAは、B社に勤務したまま平成17年に甲という発明を行っています。甲の発明行為はAの現在の職務に属しますから、職務行為でありB社が発明者Aに対して支払う出願報償金は職務行為の対価と評価できます。

したがって、出願報償金はB社のAに対する「給与」であり給与所得(所法28条1項)に分類されると考えます。弁護士顧問料事件判決【38】が判示した給与所得の意義に照らしても、出願報償金は給与所得に該当すると考えるのが自然です。」

「うんうん!問題文の事情を拾って評価する姿勢はすごくいいと思う!

給与所得該当の結論は間違っていないし、バスケットカテゴリーとされる一時所得(所法34条1項)や雑所得(同法35条1項)該当性を直ちに検討しないのも大事よね。

弁護士顧問料事件への言及もいいけど、事業所得との区別の論点には立ち入らなくていいかな。本問でAの労働者性は明らかに認められるからね。」

自習室で考えていたことを問題文を見ながら即興で喋ってみたが、好印象で驚く。

「通常の所得分類問題だったら今の解答でいいんだけど、本問は「異なる見解にも言及しつつ」と指示しているから、反対説を挙げてそれを否定しないといけないわ。これについてはどう?」

民法や刑法では判例通説と有力説の対立を示せばいいのは分かってますが、税法の学説対立は正直聞いたことがありません。レポート課題ではそれがネックになってまして。」

「えっと、「異なる見解」は「異なる学説」ではないの。所得分類問題の場合、自説とは異なる所得分類を挙げれば「異なる見解」として成り立つわ。ここまで言えば十分かしら。」

「つまり、給与所得以外の所得分類を挙げて、それを批判して当該所得該当性を否定すればいいんですね。」

僕がそう言うと、お姉さんがにこりと微笑んだ,,,どや顔に見えなくもないが。

とは言ったものの、給与所得以外で本件出願報償金の所得として該当しそうなのが見つからない。利子所得(所法23条1項)や不動産所得(同法25条1項)、山林所得(32条1項)は明らかに当たらないので除外。事業所得(所法27条1項)も同様。実績報償金を受け取った時点でAはまだ退職していないので退職所得(所法30条1項)も除外。そうなると譲渡所得(所法33条1項)か?譲渡所得に当たらなければ、実績報償金に労務との対価性が認められる以上雑所得しか残らない。

 

「今貴方は「譲渡所得が問題になりそうだけどそもそもAが甲を譲渡したと評価できるかがよく分からん」という顔をしているわね?」言い当てられてしまった。

「それについては心配無用よ。特許を受ける権利は特許法35条1項の規定ぶりから他人に移転可能な権利といえるし、経済的価値がありかつ価値が上下するから所法33条1項の「資産」に該当する。また「資産の譲渡」は有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為(名古屋医師財産分与事件判決【45】)と解されるところ、本件でAは本件規程3条に基づいて甲について特許を受ける権利をB社に承継させている。この承継行為は甲について特許を受ける権利の移転行為と評価されるから、「資産の譲渡」に該当する。」

「それじゃあ、本件出願報償金は譲渡所得に分類されるんじゃないですか?」

僕は疑問に思った。これだと、給与所得該当性と譲渡所得該当性が両立することになる。一つの所得について複数の分類が認められることはまず無い。

「そうね。私見として譲渡所得該当性を立てて、異なる見解として給与所得を挙げるのも一つのありうる結論ね。ただ、ここは貴方の結論を尊重して譲渡所得該当性を否定してみたいわ。

ここで、そもそも譲渡所得とは何か考えてみましょう。譲渡所得の趣旨言える?」

 

「増加益とか、清算とか何とか・・・」諳んじることができないのが悔やまれる。

 

「キーワードは覚えているみたいね。

譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税するものである(最判昭和47年12月26日民集26巻10号2083頁【41】)。いわゆる清算課税説ね。答案で使える表現だから、試験までに暗記しておくのがいいかも」流石院生、いや研究者だ。

「この判例は譲渡所得の本質をキャピタルゲイン、すなわち所有資産の価値の増加益とした*1んだけど、本件出願報償金の1万円は甲について特許を受ける権利の増加益といえるのかな?」お姉さんは僕に尋ねる。

「本問では本件出願報償金の額を1万円と固定していますから、仮に甲について特許を受ける権利の価値が増加するとしても、増加益を適切に評価したものといえないと思います。常識的にも、発明一つに1万円は安すぎますしね。」

「そうね!こんな感じで所得課税の趣旨から遡って所得該当性を判断すると、説得力ある論証になると思う!!これで本件出願報償金については十分かな。」

そうお姉さんは言って、紅茶のポットを取りに行った。まだ設問1の小問(1)しかも前半なんだよな...

 

 

「ずずっ、はぁ~美味しい。よし!本件実績報償金についても検討しましょうか。

本件実績報償金については、「別の所得に分類されるか」という問いになっているから、分類される/されない」という結論で十分だと思う。貴方はどう考える?」

「本件実績報償金は、甲に係る特許の設定登録がされた後、B社が甲に係る特許権をD社に売却して得た1億円を基にAに対して支払われるものでしたね。売却によって甲の増加益が実現したと評価するなら、譲渡所得に分類されると考えます。なので、別の所得に分類されます。」

「なるほど~。」お姉さんがオーバー気味に腕を組んでうんうんと頷く。でも授業で教員がこういうリアクションをしたら死亡フラグなんだよなあ。

「でも、特許を受ける前と受けた後で所得の分類が違うのは整合性の点でどうなのかしら。それは価値の実現の有無で説明できるとしても、今回甲に係る特許権を譲渡したのは誰かな?」

「譲渡したのはAじゃなくてB社です。」

「そうすると、甲の増加益はAじゃなくてB社に帰属する。でも本件実績報償金を受け取るのはA。本件実績報償金をB社じゃなくてAに帰属する増加益と構成するのはかなり骨が折れるわ。

B社の甲売却利益は結局のところAの職務行為によるから、本件出願報償金と同様に給与所得に分類させる。なので、別の所得に分類されない。こんな感じでどう?」

趣旨だけではなく、条文の文言に照らして考えることも重要だな。

ともあれ、これで設問1の小問(1)が終わった。なかなか疲れるな。

「小問(2)に移る前に、少し休憩しましょう。ケーキ取ってくるね。」そうお姉さんは言って部屋の奥へ戻っていった。

 

 

「このチーズケーキ美味しいですね。どこのお店ですか?」

レアチーズケーキを一口ほおばる。しっとりとしていて、ほのかにチーズの酸味が口中に広がり美味しい。

「や、これ趣味で作ってみたんだけど作りすぎちゃって。あと1ホールあるから良かったら持って帰る?」

「頂いちゃっていいですか?有難うございます。」これで三日は朝食に困らないな...

 

 

「小問(2)を検討しましょう。この設問では何が問題になると思う?」

ティータイムを終えて、再びお姉さんが僕に質問する。

「そうですね...まず、「いかなる所得に分類されるか、自説を述べなさい。」という問いになっていますから、小問(1)と同様に本件和解金の所得分類が問題になりそうです。また、「いつの年分の」という修飾語から、所得の年度帰属も問題になると思います。」

「そう!所得分類だけではなくて、所得の帰属年度も論点になっているのが設問文から読み取れるわ。また、問題文6段落目「Aは、平成25年7月にB社を退社した。」以降、平成26年4月・平成27年12月1日・平成28年1月20日と立て続けに年月日が登場する。ここから、時間が絡む帰属年度の論点を抽出するのもありね。

元々問題になる論点の数が限られている税法の問題では、7法以上に論点の抽出が重要になってくる。設問や問題文をしっかり読むことが大切といえるわ。

・・・所得分類と帰属年度は一応独立した問題だから、先に帰属年度の方を片付けましょう。根拠条文を教えてくれる?」

「所法36条1項です。同項の「その年において収入すべき金額」の文言から、収入する権利が確定した時点の属する年度に所得を帰属させるんでしたよね?」

「いわゆる権利確定主義と呼ばれる考え方ね。雑所得貸倒分不当所得返還請求事件判決【102】は権利確定主義を採用することを明確に判示した判決だけど、長いから(判例同旨)とすればいいかも。

ただ「収入すべき金額」の文言から権利確定主義を導くよりも、

➀「収入した」ではなく「収入すべき」と何らかの規範的基準を法は採用していること

➁法は現実の収入に着目していないこと

➂常に現実に収入があるまで課税できなければ、納税者が恣意的に課税年度を選択でき課税の公平に失する

といった趣旨等を挙げて、収入の原因たる権利が確定的に発生した場合に所得の実現を認めるべきとした方が説得力が増す*2。」

メイン論点では規範定立部分を厚く書いて、読み手に理解度を示すことが重要か。

 

「一つ質問があるんですけど、宜しいでしょうか。」

「せっかくの勉強会だもの。お姉さんに任せなさい!!」ドーンと胸を張る。

「権利確定主義についてですが、管理支配主義との関係はどのように整理すればいいでしょうか。レポートにも管理支配基準の内容を書くべきですかね?」

「それについては、管理支配基準が判例の規範として登場した理由を知った方が早いと思うわ。前提として、管理支配基準ってどういった基準かな?」

「利得が納税者のコントロールの下に入った時点を収入金額の計上時期とする考え方です。」

「その通り。管理支配基準の適用が問題になった判例について何か知ってる?」

「ええっと...利息が問題になる判例だったかと。」うろ覚え。

「利息制限法違反利息事件【33】の判決ね。問題となる判示はここ。」そう言って、お姉さんは税法百選を持ち出し、マークされた箇所をペンで示す。

 

課税の対象となるべき所得を構成するか否かは、必ずしも、その法律的性質いかんによつて決せられるものではない。当事者間において約定の利息・損害金として授受され、貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして処理することなく、依然として従前どおりの元本が残存するものとして取り扱つている以上、制限超過部分をも含めて、現実に収受された約定の利息・損害金の全部が貸主の所得として課税の対象となるものというべきである。もつとも、借主が約定の利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当することにより、計算上元本が完済となつたときは、その後に支払われた金員につき、借主が民法に従い不当利得の返還を請求しうることは、当裁判所の判例とするところであつて(昭和四一年(オ)第一二八一号同四三年一一月一三日大法廷判決、民集二二巻一二号二五二六頁)、これによると、貸主は、いつたん制限超過の利息・損害金を収受しても、法律上これを自己に保有しえないことがありうるが、そのことの故をもつて、現実に収受された超過部分が課税の対象となりえないものと解することはできない。

 

「利息制限法の制限を超過する利息や損害金の支払は違法無効とされているから、債権者の権利の確定を観念できない。でも、現に債権者は債務者から支払を受けている以上これに課税しないのは課税の公平を欠く。そこで、所得の実現を認めるための基準として管理支配基準が登場したってわけ。

このように、管理支配基準は権利確定主義を補完するものといえるから、権利確定基準で年度帰属を判断できる場合はわざわざ書かなくてもいいわ。中には両者を同列に扱う本もある*3けど、この理解で問題ない*4かな。」

「なるほど、すっきりしました。」

「で、本件和解金の話に戻るけど、これについては和解成立の日にAの支払請求権の確定を認めて、平成27年度を所得の帰属年度とするのが解答になるわ。和解調書が確定判決と同一の効力を有することや、B社が請求権の存在自体を争っていたという問題文の事実を織り込んでもいいかもね。

さて、所得分類の論点に行きましょうか。」

「本件和解金についても、給与所得に分類していいと思います。民事訴訟が提起されている点で本件出願報償金等とは異なりますが、甲という特許の対価であることやそれがAの職務行為に起因することは同じですから。AはB社を退社していますが、退職金云々の話は問題文に記載がありません。退職所得への分類も本問では妥当ではないと思います。」

「そう!よく一時的に支払われた和解金ということで一時所得に飛びつく人もいるけど、まずは所法34条1項の8種類の所得に当たらないか吟味することが大事だわ。

本件和解金とこれまで出てきた報償金との異同に着目するのがこの問題のカギね。」

これで設問1が終わった。問い自体は単純だが、引用すべき判例や着目点の数が多く、記載内容の充実度で点数の差がつく問題といえる。

 

「設問2だけど、前期の税法1は所得税法の講義で貴方は法人税法をまだ勉強していないよね?説明はこちらで引き取らせてもらうわ。」

なら何で先生はレポート課題として本問を出したんだ?と思ったが、解答は設問1までとするという指示を見落としていたかもしれない。

「設問2は単純で、結論から言うと法法34条1項と4項が適用される結果、D社は本件食品の価額を損金の額に算入できないことになる。

ただし、前提として、本来本件食品の価額は法法22条3項2号で損金の額に算入できること、別段の定めとしての34条1項の存在やその趣旨、D社の組織体制からEによる本件食品の消費をD社のEに対する給与と評価できることを説明する必要があるわ。」

口頭でスラスラと喋るお姉さんの姿に思わず見惚れてしまう。間違いなく合格者のレベルに達していると初学者の僕でも理解できた。

 

「これで本問は全て解き終えたことになるわ。長い時間お疲れさま~。」

お姉さんがのほほんとした声で労って下さった。

「こちらこそ、有難うございました。問題の解き方も含めて、とても勉強になりました。」

「いえいえ。わたしも久しぶりに税法トークができて楽しかった。

それで、面接のことなんだけど、採用ってことで。これからよろしくね。」

そう言ってお姉さんは握手の手を差し出した。

「えっ?これから面接するんじゃないんですか?」思わず握り返す。

「この勉強会、実は面接も兼ねて行っていたのよ!貴方は税法マスターの素質があるわ!!!」急に立ち上がってビシッと指を差す。

 

「いや絶対今とっさに考えましたよね」あと税法マスターとは一体...

「いや確かに今考えたんだけど、」認めるのか。

「もっと貴方と勉強したいなって。勿論貴方の時間を拘束するわけだから、謝礼も出そうと思っている。試験休みについても考慮するけど...ダメ?」

そう言ってお姉さんは上目遣いをしてくる。こんなの断れないに決まっている。

それに、こうして二人で勉強するのは楽しいと感じていた。ローの授業では味わえない、独特な雰囲気。

 

「分かりました。こちらこそ勉強させてください!」

 

ーーー

「勉強会とは別にお願いがあるんだけど、貴方に手伝ってほしいことがあるの」

机の資料を片付けながらお姉さんは言う。

「ケーキもご馳走になりましたし、何でも言って下さい」

生半可に返事をしたが、キラーンとお姉さんの目の奥が光る音がしたと思ったらもう遅かった。

 

「じゃあ...この部屋の掃除を手伝ってくれる?」

この後二人で滅茶苦茶掃除した。

 

 

(答案例)

 設問1、小問(1)
1 本件出願報償金の所得分類
(1) 本件出願報償金は本件規定5条1号に基づきB社がAから甲に係る特許を受ける権利を承継したことにより、同人に対して支払ったものである。甲に係る特許を受ける権利は他に移転可能な権利であり(特許法35条1項参照)所得税法(以下、所法と略す)35条1項の「資産」に該当する。またAが、本件規定3条に基づき甲に係る特許を受ける権利をB社に承継させた行為は「資産」をB社に移転させるものであり所法35条1項の「譲渡」に該当する。したがって、本件出願報償金は同項の譲渡所得に分類されそうである。
 しかし、譲渡所得は資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨であるところ(判例同旨)、本件出願報償金の額は1万円と固定されており金額は特許を受ける権利の値上りと無関係といえる。したがって、同報償金は譲渡所得の趣旨に合致せず譲渡所得に分類されない。
(2) AはB社の研究員として勤務しているため、本件出願報償金が給与所得(所法27条1項)に分類されるか。
 同条の「給与等」とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう(弁護士顧問料事件判決参照)。
 本件において、Aは平成3年4月からB社との雇用契約民法623条)に基づき同社のC研究所に勤務し、同社の指揮命令の下で食品の研究開発への従事という労務を提供していた。そして、Aが平成17年に発明した甲は性質上B社の業務範囲に属し、Aの行為は同人の現在の職務に属するものであった。そうだとすると、本件出願報償金は、AがB社から時間的空間的拘束を受けて労務を提供し(従属性)その対価としてB社から支給された(非独立性)ものといえる。
 よって、本件出願報償金は給与所得に分類される。
2 本件実績報償金の所得分類
(1) 本件実績報償金は本件規定5条2号に基づきB社がAに対して支払ったものであり、本件出願報償金と同様譲渡所得に分類されるか問題となる。
 確かに本件実績報償金はDに対する甲に係る権利の譲渡の対価の5パーセントであり同権利の増加益と評価されるが、譲渡の時点でAは甲の所有者ではなくAに増加益は帰属しない。そのため、Aとの関係で本件実績報償金は譲渡所得に分類されない。
(2) では、本件実績報償金と同様給与所得に分類されるか。本件出願報償金と本件実績報償金とでは支払の時期や機会、額で差異が生じているものの、本件規定柱書の通り両者はいずれも甲に係る特許を受ける権利の承継につき支払われるものである。そして、支払の時期等が異なることによって、AのB社に対する従属性や非独立性に変化が生じることはない。
 よって、本件実績報償金は給与所得に分類される。
設問1、小問(2)
1 所得の年度帰属
(1) 本件和解金はいつの年分のAの所得に帰属(所法36条1項)するか。
(2) 同項は「収入した金額」ではなく「収入すべき」金額と規定し、現実の収入に着目しない何らかの規範的基準を用いている。また、現実の収入があるまで課税できないとすると、納税者が課税される年を恣意的に選択できることになり課税の公平に反する。
そこで、収入する権利が確定した時点で所得の実現を認め、確定の時点の属する年分に帰属させるべきである(雑所得貸倒分不当利得返還請求事件判決参照)。
(3) Aは、平成26年4月にB社を被告として甲に係る特許を受ける権利の「相当の対価」(特許法35条3項及び5項)の残額分等の支払訴訟を提起し、B社は「相当の対価」の残額の有無について全面的に争っていた。そして、平成27年12月1日にAとB社との間で本件和解金として「相当の対価」の残額2000万円を支払う訴訟上の和解(民事訴訟法267条)が成立し、和解成立を以てAのB社に対する2000万円の支払請求権が確定したといえる。
したがって、本件和解金は和解成立日である同日に所得として実現したといえ、平成27年分のAの所得に帰属する。
2 所得分類
本件和解金の基になった権利は、AのB社に対する甲の「相当の対価」の支払請求権であり、甲の発明に対する対価という点で本件出願報償金及び本件実績報償金と類似する。そして、前述の通り、対価の支払の時期等が異なることによって、AのB社に対する従属性や非独立性に変化が生じることはない。
よって、本件和解金も本件出願報償金及び本件実績報償金と同様給与所得に分類される。
設問2
(1) EはD社の発行済株式総数の70%を所有しワンマン社長として同社の実権を掌握する代表取締役社長であるから、自己に対する報酬の決定及び支給も単独で行うことができるといえる。
 そのため、Eによる本件食品の費消をD社のEに対する報酬の支給として、同食品の価額を「一般管理費」(法人税法(以下略)22条3項2号)として損金の額に算入することができるとも思える。
(2) しかし、以下の通り22条3項の「別段の定め」である34条1項及び4項が適用される結果、D社は本件食品の価額を損金の額に算入することができない。
  「別段の定め」である34条1項の趣旨は、従業員と比較して高額な水準で支給されるという役員給与の支給の実体に鑑み、その恣意性ないし操作可能性を排除して課税の公平を図ることにある。
 本件食品は、「内国法人」D社の「役員」である代表取締役Eがその地位を利用して費消したものである。これにより、Eは本件食品の利用という「経済的な利益」(34条4項)を享受しており、同条1項の「給与」に該当する。そして、Eに対する給与は同項柱書括弧書及び各号の給与の何れにも該当しない。
 よって、34条1項及び4項の適用により本件食品の価額はD社の損金の額に算入されない。
以上

 

 

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くぅ~疲れましたwこれにてプロローグ完結です!

 

次回(平成28年第2問)↓

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*1:中野浩幸「判批」租税判例百選第7版、82頁

*2:以上の記述は、辰巳法律研究所『司法試験論文対策 1冊だけで租税法』(2018年)55頁を参考にした

*3:谷口・344頁以下

*4:金子・312頁も、「権利の確定という「法的基準」ですべての場合を律するのは妥当ではなく、場合によってはロ徳が納税者のコントロールのもとに入ったという意味での「管理支配基準」を適用するのが妥当な場合もある。」とする。