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令和2年度税法演習期末試験模範答案(身内向け)

設問(1)
本券返済額は、Aの事業所得の金額の計算上、どのように取り扱われるか。
本券返済額を➀本件元本返済額、➁本件制限内利息返済額、➂本件制限超過利息返済額の3つの部分に分けて、それぞれの取扱いを述べなさい。
その際、①については、所得概念との関係を前提として検討すること。

1 ➀本件元本返済額
(1) 本件元本返済額は、本件借入金に対応する金額である。所得税法上の所得とは、源泉の如何を問わず納税者の担税力を増加させる一切の利得をいい(包括的所得概念)、担税力の増加は純資産の増加によって判断される(純資産増加説)。金銭消費貸借契約によって借主は借入金を取得するが、同額の借入金債務を負担する。
そのため、借入の前後で借主の純資産は増加せず、本件借入金は所得に該当しない。本件借入金の額はAの事業所得(所得税法(以下、所法)27条1項)の金額の計算上、収入金額(同法36条1項)に算入されない。
(2) 以上のように本件借入金はAへの課税上考慮されない以上、これに対応する本件元本返済額についても課税上考慮すべきでない。本件元本返済額は、Aの事業所得の計算上必要経費(所法27条2項及び37条1項)として控除されない。

2 ➁本件制限内利息返済額
(1) 本件借入金の利息返済額は借入金の利息に対応するところ、利息が純資産の増加をもたらすことがないとは一概にいえない。そのため、Aの事業所得の計算上必要経費として控除されるか問題となる。
(2) 必要経費には、「当該総収入金額を得るため直接に要した費用」すなわち個別対応の必要経費(所法37条1項前段)と「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」すなわち個別対応の必要経費(同項後段)がある。Aは個人商店の経営という事業を行っているが、事業用資金の借入れに伴う利息の負担は、商店の経営にとって支出が必ずしも不可避であるとはいえない(経営の悪化により事業用資金が枯渇しただけ)。したがって、利息は個別対応の必要経費に該当しない。
 もっとも、本件借入金は事業用の資金として使用され事業との関連性が認められる。そして、借入金に付随する利子もまた事業に関連するといえるため、一般対応の必要経費に該当する。
(3) 一般対応の必要経費については、債務の確定が要請される(所法37条1項後段括弧書)。債務の確定の要件は、(ⅰ)債務の成立、(ⅱ)債務に基づいて具体的給付をすべき原因となる事実の発生及び(ⅲ)金額の合理的算定可能性と解される。
 これを本件についてみるに、(ⅰ)利息契約に基づくAのK社に対する利息支払債務の成立、(ⅱ)本件借入金の弁済期の経過、(ⅲ)利息の金額は利息制限法1条の制限利率を超過していないことの事実がそれぞれ認められる。したがって、債務の確定が認められる。
(4) 以上より、本件制限内利息返済額はAの事業所得の計算上必要経費として控除される。

3 ➂本件制限超過利息返済額
(1) ➁本件制限内利息返済額と同様の基準により検討する。制限利率を超える利息の返済額であっても、Aの事業との関連性は否定されない。そのため、個別対応の必要経費には該当し得る。
 しかし、制限利率を超える利息は無効であるため、利息支払債務は成立しない。(ⅰ)債務の成立が認められない以上、債務の確定が認められない。
(2) 以上より、本件制限超過利息返済額はAの事業所得の計算上必要経費として控除されない。

 

設問(2)
AがK社から2015年に返還を受けた本件制限超過利息返済額に相当する額の金員は、所得の課税上どのように扱われるか。また、その返還額に付された利息は、所得税の課税上どのように取り扱われるか。

1 前段
(1) 本件制限超過利息に相当する金額は、利息が無効である以上本来Aが返済する必要が無く支出する必要が無かったものである。そうであるならば、弁済した利息の金額が不当利得を理由に返還されたとしても、弁済~返還の前後でAの純資産の増加は認められない。
 本件制限利息返済額の返還によってAの担税力は増加せず、所得に該当しない。
(2) よって、本件制限超過利息返済額に相当する額の金員はAの収入金額に算入されない。

2 後段
(1) 返還額に付された利息は、元本である返還額から生じた純資産の増加と評価できるため、元本の所得該当性に関係なく所得に該当する。そのため、利息の所得分類が問題となる。
(2) Aは事業所得者であるため上記利息が事業所得に分類されるか問題となる。しかし、この利息は制限利率の超過に基づく過払金返還請求権の行使を源泉とするものであり、個人商店の経営から発生したものではない。よって、事業所得に分類されない。
 次に一時所得(所法34条1項)に分類されるか検討する。過払金返還請求権の行使を源泉とする所得は同項に列挙する8種類の所得の中に存在しない。もっとも、利息は性質上一時的・偶発的なものとはいえないから、一時所得に分類されない。
 よって、上記利息は雑所得(同法35条1項)に分類される。
(3) 以上より、返還額に付された利息は、Aの雑所得の金額の計算上収入金額に算入される。


設問(3)
本件各確定申告における制限超過利息の取扱いは適法か。
(1) 本件破産会社は、顧客から支払を受けた制限超過利息に係る収益の額を益金の額(法人税法(以下、法法22条2項)に算入して本件確定申告を行っている。制限超過利息の支払いは利息制限法に違反するから、違法所得は益金に算入されないとも思える。
 しかし、包括的所得概念の下では、源泉が違法行為である所得であっても担税力を増加させる経済的利得を現実に支配し享受する限り、違法所得も所得とされる。よって、制限超過利息の額も益金の額に算入される。
(2) 違法所得の年度帰属については、権利の確定が認められないとしても法人が金員を現実に収受し自己の所得として自由に支配できる場合は、その時期の属する年分の金額とすることが許される(管理支配基準)。
 本件において、本件破産会社は制限超過利息を現実に収受している以上、その金員について自由に支配することができる。よって、年度帰属の点についても問題が無い。
(3)以上より、制限超過利息の取扱いは適法である。

 

設問(4)
本件各更正の請求は認められるか。
(1) 本件各更正の請求は、制限超過利息部分について過去の損益計算に遡り、益金を減額更正することを求めるものである。
(2) 法人税の課税においては、事業年度毎に収益等の額を計算することが原則であり、このような処理は公正処理基準(法法22条4項)に従ったものである。
 そして、破産債権が破産手続により確定した場合に前記損益修正と異なる取扱いを許容する特別の規定は存在しないから、過去の損益計算を遡って修正することは破産した法人であっても許されない(判例同旨)。
(3) よって、本件各更正の請求は公正処理基準に反するため、認められない。

以上