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ロースクールたより9月号

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なお現実

 

こんにちは。

前期の成績が発表され、来週の木曜から授業が再開するという現実に直面しています。

サマクラも全部玉砕したので、この夏休みは短答と司法試験の過去問とアルバイトtwitterしかしてませんでした。

 

来年の今頃は司法試験から解放されて一日中ゴロゴロニート生活を満喫していたいですが、限界ロー生らしくおそらくアルバイトをギチギチに詰め込んだ社畜生活を送っているのだと思われます。おしごとたのしいめう!

 

前置きはこれくらいにしておいて、今回はロースクールでの模擬裁判(刑事)について書いていきたいと思います。

 

 

ーーー

1.模擬裁判の概要について

法科大学院では、模擬裁判の科目が必修となっており普通は民事裁判・刑事裁判のどちらかを選択します。(どこのローでも同じ)。

刑事模擬裁判では、予め用意された事例に基づき学生が裁判官・検察官・弁護人・被告人・証人に分かれてロールプレイングすることになります。

準備されているのは事例と手続の大枠(冒頭手続→証拠請求→取調べ(証人尋問含む)→被告人質問→論告求刑・最終陳述→判決)、被告人と証人の素性くらいで、検察官・弁護人の主張立証方法については自分たちで考えることになります。裁判官も、最後に判決文を起案することになります。

実際の講義としては、

 

第1回:オリエンテーション・訳決め

第2~9回:レジュメや動画、ZOOMを用いた講義

(この間に検察官・弁護人は訴訟資料の準備)

第10~15回:模擬裁判実演(一日かけて行う)

 

という流れで進められました。最後の模擬裁判実演は夏休みの間に行われましたが、これは期末試験期間と被らないようにするというローの配慮だと思われます(なお予備短答)

また基本的に講義はオンラインで行われましたが、最後の裁判実演はローの模擬法廷を使用して対面で実施されました。参加者全員マスク着用・窓を開放して換気という条件付きですが。

 

私は前期で刑事模擬裁判を履修しましたので、後期の民事模擬裁判がどのように行われるのかは分かりません。ただ、民事についてはSA*1 として講義に関わることになったため、ブログのネタが尽きたら民事についても翌月以降少し紹介するかもしれません。

 

2.具体的な内容

1で書いた通り、第9回までの講義を除き模擬裁判科目では学生が裁判官・検察官・弁護人に分かれて活動を行いました。

私は裁判官役として当日までの準備・当日の手続進行等を行いましたが、検察官・弁護人がどのような活動を行ったのかについては当日の活動を除いて全く分かりませんでした。

そこで今回は、検察官役・弁護人役をそれぞれ担当したローの友人から話を聞いたのでそれを私の体験と合わせて紹介したいと思います。ありがとうございますやでほんま

 

以下、区別するために

赤字検察官青字弁護人緑字裁判官、黒字をその他とします。

ーー

今回取り扱った事例ですが、公訴事実と検察官側の冒頭陳述を基にするとこんな感じになります(そのまま載せると著作権元の法務省法務総合研究所消されるので・・・)

 

被告人(以下、A)は建築機械の操縦者(オペレーター)としてある中小企業で勤務していたが、勤務態度等に問題があった。当時社員への仕事の割り振りを担当していた被害者(以下、V)は社長の指示で、Aに仕事を回さなくなった。

その結果Aの収入は激減し日々の食事にも困る状況であった。またマンションの家賃も払えなくなり、外のベンチで寝泊まりするようになっていた。

Aは社長を脅迫して生活資金を出させることを決意し、ナイフを持って会社へ向かった。しかしAが会社へ行った当時社長は不在であったため、AはVをナイフで脅迫して現金を奪い取った。

 

こんな感じです。検察官の言い分だけを考慮すればAはどうしようもないクズです。

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お前が言うな

 ですが、犯行を目撃していたのがVの他は当時会社にいた同僚の一人のみであること、その同僚もAも好ましく思っていなかったことから、Vと同僚が結託してAに不利な目撃証言を行う可能性がゼロではありません。

弁護人としてはそのウィークポイントを突き、Aの犯行そのものがなかったというストーリーを立証するというのが戦略だったと思われます(裁判後の講評でも弁護士の先生がそのことを仰っていました)。

 

先程書いた通り、第9回までは全体での講義が行われました。冒頭手続・証拠調べ手続等の手続の説明や、去年の裁判実演のビデオを用いた証人尋問の技術を学習しました。前期で開講された刑事法律文書作成と重複する部分もありましたが、個人的にはよかったと思います。

また一回だけ、後藤貞人弁護士と大川治弁護士による法定技術の講義がありました。後藤先生は元被告人の無罪が確定した平野母子殺害事件の主任弁護人を務める等、刑事弁護の「レジェンド」と呼ばれています。大川先生は堂島法律事務所のパートナーで、こちらも刑事弁護に携わっている弁護士の方です。

 

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後藤弁護士と大川弁護士

「Case(言い分)とTheory(理論)を区別する」、「冒頭陳述は最初と最後を強調する」、「証人に物語を語らせ(インタビュー)、コントロールする」等の技術を教えて頂きました。

 

講義の後は、検察官・弁護人・裁判官に分かれて準備をそれぞれ行いました。

 

(検察官)

準備量が大きかった事項は、冒頭陳述(「冒頭陳述要旨」の起案)、検察官側証人の証人尋問、論告(「論告要旨」の起案)でした。

⑴ 事実認定の確定
他の準備に先立って、事実認定を統一、確定させる作業をしました。
検察官は一人が全手続を担当するのではなく、各パートを分担して(P1~P3)担当します(これは弁護士・裁判官も同じ)。もっとも、自分のパートの準備に専念するだけでなく、他のパートからの相談や相互批判に応えるためにも、全員がひとつの事実認定を共有しておく必要がありました。各パートで事件記録を読み、事実認定案(たたき台)を作成し、それらを各パート相互に参照し合い、ZOOMで打合せをし、事実認定を確定させました。この事実認定に基づいて、各パート各々の準備にすすみました。

⑵ 証人尋問の準備
いわゆる証人テスト*2を、ZOOMを通して行いました。検察官側の証人は、本件犯行の目撃者と被害者の2名です。尋問担当パートの学生が尋問事項書、証人テストメモを作成し、それに基づいて証人の記憶を確認していきました。証人の記憶を汚染しないよう注意を払いました。他方で、証人の証言だけで、強盗罪の心証がとれるよう、尋問事項を整理、工夫していきました。

⑶ 書面の起案
各パートでたたき台をつくり、LINEで共有し、派遣検察官の先生にコメントをもらい、検察官役学生でもLINEやZOOMで議論し、各パートに持ち帰る、それを数回繰り返す、という形で行いました。
耳で聴いてわかりやすい平易な内容に仕上げること、情報を詰め込みすぎず、時間内に陳述できる分量にまとめることという課題に苦しみました。

⑷ 対面での公判準備
コロナ禍ではありましたが、全学閉鎖が緩和されて以降、研究科を通して大学の許可を得て、期末試験の数週間前等には、模擬法廷等の学内施設で公判準備をしました。

⑸ その他

そのほかの準備事項としては、要旨の告知の準備、証拠物の用意、証人尋問で使用する図面の準備、弁護人請求証拠に対する対応、法廷配付用の書面の印刷などを行いました。各自が模擬裁判の検察官、弁護人、裁判官教員の講義動画等を見直すほか、尋問や異議について扱ったYouTube動画等を通してイメージを大まかに把握する、実務書ほか役立ちそうな文献を読んで勉強するなどして、得たものを共有したこともありました。

 

(弁護人)

まずは担当を決めるために弁護人役を3つの班に分けました。反対尋問を行う班が2つと被告人質問を行う班が1つでした。班に分けた後は各班での話し合いが中心でした。例えば、証拠提出書の作成や冒頭陳述書の作成などです。こちらの主張するストーリーが何なのかを考えた上で作成することに努めました。
これと並行して被告人との模擬接見も行いました。ここではなるべく全員が参加できるように予定を組んで行きました。合計で4回行ってます。例年は弁護士の先生が付き添ってくださって模擬接見を行なっていたそうですが、今年はこの厳しい情勢のもと、先生はおろか、対面で模擬接見を行うことも厳しい状況でした。それでも最後の2回は自粛緩和の中でなんとか対面で行うことができました。
これらを行なった上で、グループを通してリハーサルを行いました合計二回行いました。

 

(裁判官)

裁判官ですが、事前に起訴状が配布された位でそれ以外に特に準備は行いませんでした(←おい)。

ただ、裁判官の先生から

・予め次第を作成して手続の進行を頭に入れておくこと

・証人尋問・被告人質問では必ず異議が出されるため、異議の対処の仕方を覚えておくこと

を指示されたため、代表として他の裁判官の学生に周知させました。

また大阪地裁まで裁判傍聴(1回の公判期日で結審するものを中心に)に行き、どのように裁判官が訴訟進行するのかを学習しました。

 

ーー

模擬裁判実演当日は↓のスケジュールで進められました。

 

9:00~9:20 冒頭手続・甲号証*3取調べ(ここで証人採用)

9:20~10:20 目撃者の証人尋問(以上が第1パート)

10:30~11:50 Vの証人尋問

11:50~12:00 乙号証と弁号証(弁護人の請求証拠)取調べ(以上が第2パート)

13:00~14:00 被告人質問

14:00~14:40 論告・弁論

14:40~16:00 評議

16:00~16:45 判決

17:00~19:00 講評

 

一日で冒頭手続から判決までやってしまうという超過密スケジュールです。特に裁判官は評議の80分で各裁判官の意見をまとめて判決文を起案するという無理ゲーを強いられることになりました。

 

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え!! 起訴状しか資料が無い段階から80分でPB双方の主張証拠を整理して判決文の起案を!?

以下、法曹三者の当日の活動内容を書いていきます。

 

(検察官)

準備段階で公判手続の細かい動き等を簡易にはリハーサルする機会がとれたので、手続の流れに迷いや不安がない分、弁護人役と裁判所からの尋問事項についての異議申立、証人の証言や弁護人役からの異議、裁判所の訴訟指揮への反応とその応対に集中できたように思います。私も当事者席に座って非日常的な緊張感に包まれて、あたふた、リハ通りにできなかった部分もありました。証人が証人テストでの受け答えとは違うことを供述する場面や、また被告人も(事前に当たりはつけてはいましたが)想定にないような供述をする場面もあり、臨機応変な対応が求められました。メンバーみな苦心したと思います。
被告人質問と論告の調整は昼休みまで続き、主質問が終わった段階で最終調整できるように準備しました。

 

(弁護人)

当日の活動は冒頭手続き→証拠調べ→判決の流れです。あらかじめ作成した冒頭陳述書等を読み上げたりした後に、証拠調べに入りました。そして、相手方の検察官の主尋問のときには、異議があれば申し出るということをしました。実はあらかじめ先生から異議事由のある質問を4つ用意されていて、4つ中2つは必ず質問しろとのことでした(この意味のない質問をどこに組み込むか大変苦労したとのことです)。そんなこんなで反対尋問を2つ、被告人質問を1つ行なった後に、弁論を行いました。

 

(裁判官)

最後に判決を行わないといけないため、評議の段階で慌てないように

・各当事者はどこに力点を置いて主張しようとしているのか

・今行っている主張・提出した証拠はどのような意味を持つのか

を考えながら各当事者の主張等を聞いていました。また証拠決定や異議申立てに対する決定は、内容によっては当事者が行おうとしている主張を大きく揺るがすことになるため、かなり神経を使いました。

その他、各手続毎の時間が指定されているため、尋問が長引きそうになったら当事者に対して「あと何分で終わりますか?」と急かすこともせざるを得ませんでした。

 

 

判決は各パート(合議体)毎に行い、結果どの合議体も有罪判決(懲役刑、年数は異なる)という結果で終わりました。以下が感想になります。

 

ーー

(検察官)

有罪心証を決定づけてくださった証人役の学生、学生からの相談等に即座に対応してくださった派遣検察官の先生、そして何より準備期間が限られているなか、ともに学び、実演を成功に導いてくれた検察官役各パートには、感謝に堪えません。
公判準備と実演を通して、公判手続の流れを頭に叩き込むことができたのは大きな収穫になりました。
論告から逆算した公判準備(論告で何を論じたい/論じるべきか、という視点から、証人尋問事項、被告人の反対質問事項を考える)という視点がさらにあればよかったかもしれませんが、その点至らなかった点があったのは失策でした。

総じて司法試験に合格するだけでは(……まずは本試験に合格すること、また法科大学院の課程をパスすることさえ困難がありますが)、到底、実務には出られそうにないなということが、よく分かったところです。そうして、修習、実務に出た後も研鑽の機会があることや指導役の検事や弁護士がいることのありがたさも想像できました。
今回の模擬裁判の公判準備、実演の学び、講評を受けての気づきを糧に、実務的な視点を忘れず、今後も勉強していきたいと思います。

(弁護人)

良かった点としてはとにかく勉強になったというところです。どういう風に調書を作成するか、どういう風に主尋問が来て反対尋問を行うかといったのを詳しく勉強することができました。またいざ本番になると意外と喋れなかったり、異議が出ると戸惑ってしまったりと思ってたことと違うことが多々ありましたが、これも普段の学習では学べないことであり、大変大きな収獲だと思ってます。

結果としては自分たちの主張は何も認められませんでしたが、やってきたことは決して無駄では無かったです。
その一方で反省すべき点もあります。ある程度は仕方ない部分はあったのかもしれませんが、班毎の話し合いはされていたものの、全体での話し合いは十分に行われていたとは言えませんでした。そのため、冒頭陳述と弁論のストーリーが微妙に異なったりすることとなってしまいました。その統一感のなさが先生にも気付かれてしまい、講評で指摘されてしまいました。この部分についてはもう少し良くできたのではないかと感じております。

それ以外にも反省すべき点も多いという人もいましたが、私としては初めての経験で皆さんがここまで仕上げてきたのはすごいなと感じております。

 

(裁判官)

今回裁判官として実際に訴訟進行をして感じたのが、裁判官の権限は想像以上に大きいということです。私は今回第2パートで裁判長を務め、当事者の異議の対応の他、検察官が請求した乙号証を複数却下しました。前者については事前に準備をしていたため特に問題なく処理することができましたが、後者についてはまさか弁護人から不同意の意見が飛んでくるとは思っておらず、軽くパニックに陥った結果本来取調べても良い証拠についても却下の決定を行ってしまったと個人的には思っています。

実際の事件では、裁判長の訴訟進行に対する不服申し立てを上訴等によって行うことができます。ですが、このような訴訟進行の瑕疵があったとしてもそれを前提として手続きが進行し、場合によっては判決の内容が瑕疵によって左右されかねないということもあり得ます。訴訟進行をすることによって一種の「全能感」に浸ってしまうことは否定できないため、このことは肝に銘じておきたいと思います。

また、当事者をある程度は納得させられる程度の判決書の起案はかなり難しいことが分かりました。時間が80分と限られているのもあり、まず結論を決めて反対仮説を潰していく方向で起案することになりましたが、弁護人の主張を十分に考慮することができなかった点でかなり申し訳ないことをしたと反省しています。

 

3.まとめ

色々問題点や課題が見つかった今回の模擬裁判ですが、私はこの科目を履修して刑事訴訟の難しさや奥深さを知ることができたので良かったと思います。司法修習でも模擬裁判があるらしいので、もし刑事裁判をすることになったら今回の経験を基に頑張りたいと思います。

 

今月号の記事は以上とさせて頂きます。

記事作成にあたり、協力してもらったローの友人には深く感謝しここで謝辞を述べたいと思います。

ありがとうございますやでほんま(二回目)

 

 

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10月号ですが、予備試験論文式試験終了後に更新の予定です。

宜しくお願い致します。

*1:ステューデント・アシスタントの略。詳しくはhttps://careergarden.jp/daigakushokuin/ta-sa-shigoto/

*2: 公判での証人尋問に先立って、検察官または弁護人が、事前に証人と面談し、事実関係を確認すること。証人尋問の準備として、刑事訴訟規則に規定されている(191条の3)。

*3:乙号証(被告人の供述調書と身上関係調書)を除いた証拠