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【税法ガールⅡ】第2話 流星のナミダ(平成27年第2問)

お久しぶりです(約5ヶ月ぶりの更新)。

これからもマイペースで執筆していくのでオナシャス!

 

前回

lawschoolreport.hatenablog.com

 

 

ーーー

「...ってのが今日あったんだよね」

「そうなんだ~」ニコニコ

「いやあ、ロー入学前からこんなに税法のこと勉強してる子がいるのは驚いたよ」

「もしかしたら、予備試験にパスして今年司法試験受けるのかもね」ニコニコ

「もしそれなら、尚更凄いよねえ。僕なんて、結局論文で落っこちたんだから」

「そうだね」ニコニコ

「いやあ、4月以降が楽しみだなあ~まあ、新入生と関わる機会なんて、うちのローではあんまりないかもだけど」

「そうだね」ニコニコ

「・・・」

「(ニッコリ)」

「あっ、あの・・・」

「なぁに?」ニコニコ

「どうして、ユカリサンはさっきから顔を引きつって笑っているんでしょうか・・・?」

僕の真向かいの席に座る女性が、テーブルに置かれたホットミルクをぐいっと飲み干し、コトンとコップを静かに置いてゆっくりと話し始めた。

 

「それはね、一カ月ぶりのデートに来たと思ったら、君がさも嬉しそうに私以外の女性のことを喋り始めたから、私が知らない所で何か楽しそうなことがあったのかなーって。」

ハッと気づき周りを見渡さすと、他のお客さんや店員さんの僕に対する、「あーあっ。やっちまった。」という冷めた視線が四方八方から突き刺さる。こうかはばつぐんだ!

 

僕は額と両手をテーブルに付け、

「マジすんませんでした」

そのままホットミルクのお代わりとブルーベリーチーズケーキを追加注文した。

 

 

 

「チーズケーキには、甘酸っぱいブルーベリーが合うのよねえ」

「仰る通りです」

ケーキを口いっぱいに頬張った彼女の感想に対して、僕はただ頷いて同意する。

僕たちは今十三駅近くの喫茶店にいる。時刻は既に夜の7時を回っていたが、仕事帰りのサラリーマンや、ノートパソコンでカタカタ作業をしている大学生でごった返しており、店員さんがバタバタ走り回っていた。

「まあ、君が非モテでデートのお作法を知らないのは私も十分分かってるから、いいんだけど」

「ハイ」

ただただ頷くばかりだった。

 

僕の真向かいのソファに腰掛けている女性は縁(ユカリ)さんといい、現在はN大学の大学院法学研究科で専任講師をしている。4月からは学部とロースクールで税法入門と所得税法の講義を担当するらしく、論文執筆の傍ら講義の開講準備に追われているそうだ。

彼女とは去年の春にひょんなことから知り合い、色々あって現在は恋人の関係にある。

少し余裕ができたと彼女が言うので、今日は一か月振りにお茶でも飲んでゆっくりしようと誘ってみたのであるが...

 

「それで、今日はその、アオイさんと一緒に平成27年の第1問を勉強したってことよね。」

「はい、その通りでございます」

「はぁ...もう分かったから。

じゃあ、早速だから同じ年の第2問を今日やってしまいましょう」

「えっ、許してくれるの?」こちらとしては有り難いが。

「カフェ代は君が奢ってね。この年は第1問より、第2問の方が検討しがいがあるから。

 

それに...君と一緒に勉強する時間が減るのは...彼女として我慢できないから(ゴニョゴニョ)」

 

 

彼女が顔を赤らめて嫉妬する姿を見て僕は、

ユカリさんが一番かわいいよ(分かりました、今から準備しますね)」

と本音をぶちまけた。

僕達に対する、周りのお客さんや手が空いた店員さんの視線は、ホッとするものと「アツアツだねぇ」とニヤニヤするもののどっちかだった。

カップルここに極まれり。

 

 Aは,コンピュータのソフトウェアの開発を目的とするX株式会社(以下「X社」という。)に勤務した後,独立してY株式会社(以下「Y社」という。)を設立し,その代表取締役に就任し,毎月定額の報酬を受けていた。
 Y社は,主にX社の下請会社として,同社が受注したソフトウェアの開発に関連する作業について委託を受け,報酬を受け取っていた。Y社は,Bらを雇用し,毎月給料を支払っていた。Y社にはC法律事務所の弁護士Cという顧問弁護士がおり,Y社は,Cから法律的な助言を定期的に受けていた。具体的には,元請であるX社との契約条件の内容や契約書の内容さらには資金調達の方法やY社の従業員の雇用問題などについて,AがCの事務所を訪問するなどして相談していた。なお,顧問契約により,Y社は,Cに対して毎月定額の顧問料を支払うことになっていた。
 X社(事業年度は暦年としていた。)は,平成26年10月1日,甲株式会社(以下「甲社」という。)の業務について,ソフトウェアの開発を3000万円で請け負い,同日,これに着手した。完成したソフトウェアの引渡しは平成28年2月を予定しており,報酬の支払は同年3月15日とされた。
 X社は,開発に関連する業務のうち,甲社の業務の現状把握及びその改善並びにソフトウェアに対する甲社の要望を確定する作業をY社に委託し,Y社はこれを受託した。X社が甲社に提示した開発スケジュールでは,Y社が担当する作業は,開発着手後1か月をめどに終了させることになっていた。Y社の作業が終了しなければ,その後のソフトウェアの仕様の確定やソフトウェアの基本設計さらには開発作業やテスト作業を行うことはできない。Y社の作業が遅延すれば,開発全体が遅延することになるため,Y社は,X社からスケジュールどおりに作業を終了させるように厳命を受けていた。Aは,上記の作業をスケジュールどおりに終了させるためには,A及びY社の従業員Bらだけでは人手が足りないと判断し,Dに対して作業の一部を委託することにした。DはAとともにX社に勤務していたが,その後独立し事務所を賃借して,「ワークスD」という名称でX社を始めとする大手の開発業者の下請や孫請として業務委託を受けて収入を得ていた。Y社とDとの間には「業務委託契約書」(特に「兼業禁止」の条項はない。)が作成され,そこでは,Y社の作業が終了した時点で「業務委託契約書」に定める金額を,Dに対して支払うことになっていた。
 Y社が委託を受けた作業の進行スケジュールはAが定め,その進捗状況も厳しく管理し,BらやDの作業が遅れると厳しく指導するなどしていた。
 A,Bら及びDは,Y社が委託を受けた作業を行うために,X社の従業員とともに,何度も甲社の事務所を訪れ,甲社の代表取締役,担当部長,エンドユーザーとなる甲社の従業員などから意見を集め,甲社内の意見の調整にも奮闘した。甲社の意見聴取に際して,BらはY社所有のノートパソコンを利用していたが,Dは自分のタブレットパソコンを利用していた。
 また,A,Bら及びDは,Y社内の会議室で連日打合せを行い,共同して甲社に対する説明資料などを作成したり,甲社がソフトウェアに対して要求する仕様の内容を取りまとめる書面を作成したりするなどの作業を行った。その際は,BらもDもY社のデスクトップパソコンを利用していた。Dは,Y社までは自分の自動車で移動していたが,Y社から甲社まではY社の自動車に同乗して移動していた。
 Aの進行管理が良かったため,Y社は,X社の定めたスケジュールどおりに作業を終了することができた。
 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。

 

〔設問1〕
Y社は,A,Bら及びCに対して毎月金員を支払う際に,所得税源泉徴収する必要があるか。源泉徴収制度について概要を述べた上で,それぞれについてY社との間の法律関係に留意しつつ検討しなさい。
〔設問2〕
Y社は,Dに対して金員を支払う際に,給与所得に係る所得税源泉徴収する必要があるか。Y社との間の法律関係に留意しつつ検討しなさい。
〔設問3〕
甲社から請け負ったソフトウェアの開発に係るX社の収益について,その帰属事業年度を判断する場合において,判断基準としてどのような考え方があるか。その内容について,条文上の根拠を摘示しつつ説明しなさい。

 

(参照条文)法人税法施行令
(工事の請負)
第129条 法第64条第1項(工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度)に規定する政令で定める大規模な工事は,その請負の対価の額(その支払が外国通貨で行われるべきこととされている工事(製造及びソフトウエアの開発を含む。以下この目において同じ。)については,その工事に係る契約の時における外国為替の売買相場による円換算額とする。)が10億円以上の工事とする。
2~11 (略)

 

 

「早速設問1の検討から入りましょうか。設問1では何を解答することが問われているかしら?」

①Y社がA、Bら及びCらに支払う金員について源泉徴収をする必要があることと、源泉徴収制度の概要ですね。設問の書きぶりからすると、②を先に記載した後に①を解答した方がよさそうです。」

「②と①は別の小問と考えていいから、項目立ては別々にした方が採点者も読みやすいと思うわ。

まず②だけど、国税庁の説明*1によれば、

①給与や利子、配当、税理士報酬などの所得を支払う者が、

②その所得を支払う際に所定の方法により所得税額を計算し、

③支払金額からその所得税額を差し引いて国に納付するというも

源泉徴収制度の意義とされている。

このようなニュアンスのことを書ければいいんだけど、単に「租税を徴収する制度」とか、「所得者の代わりに納税する制度」、「給与所得者に関する制度」みたいな抽象的な表現は制度の不十分な理解を指摘されかねないので注意すること。

後、今回は源泉徴収制度の説明を訊かれているから、原則の申告納税制度については説明しなくてもいいわね。余力があったら源泉徴収制度のメリットなんかを書いてもいいけど、そこは他の問題との兼ね合いになるわ。」

源泉徴収制度についてはこれを読んでみると面白いかも、と彼女は僕に報告書のコピー*2を差し出してきた。いつの間に準備してきたのだろうか...

 

「ここからが本題だけど、本件でY社は源泉徴収をする必要がある?」

「そうですね...

まずBらですが、BらはY社の従業員として同社と雇用契約を締結し、毎月給料を貰っています。この給料について特段の事情は見当たりませんから、給料は給与所得(所得税法28条1項)に該当します。なので、Y社は所得税法183条1項に基づいてBらの所得税を徴収する必要があります。

次にAですが、AはY社の代表取締役に就任しています。法的性質としては準委任契約になるのでしょうか...」

「委任の内容が経営業務だから、準委任でいいと思うわ。」

「分かりました。所得税法28条1項の「給与等」には、雇用契約に類する原因に基づき、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付も含まれます(弁護士顧問料事件判決【38】)。

AはY社の代表取締役なので同社内の特定の人の指揮命令に服することはありませんが、社内での取締役会への出席や、他の事業者との会合に出席することが求められます。そういった意味では、Y社はAの代表取締役としての行動を規律しているといえるので、AはY社の指揮命令に服して労務を提供しているといえます。

ですので、Aの取締役報酬は給与所得に該当し、Y社は源泉徴収を行う必要があります。」

なかなか説明が苦しいなあ...

 

「考え方はそれで合ってるんだけど、規範が給与所得の上位規範のままだとあてはめがどうしても苦しくなるわね。

弁護士顧問料事件の最高裁判決は、他に事業所得と給与所得の区別について何か言っていなかった?」

期末試験前に何度も頭に叩き込んだ判旨を思い返してみる。

「確か...空間的時間的拘束とか...継続的かつ断続的な役務の提供とかあったような。」

「そう!

弁護士顧問料事件は、給与所得と事業所得の区別については今君が言ってくれたような下位規範を立てているのね。この規範を事実に当てはめた方がやりやすいと思う!」

 

給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。

 

「確かに、こっちの規範の方があてはめしやすいです。」

「事業所得と給与所得の区別の問題が出た時には、この規範も書くといいわね。

じゃあ、Cの場合はどうなるかしら?」

「本件でCは、Y社との間で顧問契約を締結しています。顧問契約は、確か会社が弁護士に対して一定の顧問料を支払い、これに対して弁護士が顧問料の金額に応じて法律相談等のサービスを提供するものです。Cは事務所を訪問したAの相談を受けているのでAが社内にCを呼びつけている事実はありませんし、Cは他の業務が無い時間帯にAからの相談を受けているはずです。そうすると、CはY社との関係では時間的及び場所的な拘束を受けていません。

後、顧問料はAからの相談が無かったとしてもY社から支払われるものですので、相談との対価性があるとはいえません。そうすると、事業所得に該当することになります。

ですが、実際には所得税法204条1項2号が適用されるので、いずれにせよY社は源泉徴収をする必要があります。

「よくできました!適用条文が変わるだけで結論はAやBらと変わらないんだけど、検討の過程に配点が振ってあることが司法試験では多いから、条文だけ指摘して終わり、というのは勿体ないわ。

じゃ、設問2にいきましょう。」

 

 

「設問2では、DはY社と業務委託契約を締結しています。これだけでは事業所得か給与所得か判断できませんから事実をもっと拾う必要がありますが、どこから手を付ければいいのか分かりません...」

「設問2のような、事実を沢山拾って適切に評価させる問題は、次のような段取りで検討すればいいと思う。

 

①ある結論に有利な事実・不利な事実を可能な限り挙げる

②列挙した事実が多い方を自身の見解とする

③自身の見解に有利な事実を記載し、評価を加える

④自身の見解に不利な事実を記載し、これに反論(結論に影響を加えないこと)

⑤最後に自身の結論を書く

 

とにかく司法試験はいかに事実を拾って評価するかが重要だから、まずは沢山事実をピックアップすること。後は事実が多い方、要するに「勝ち馬」に乗って論証していけばいい。90分で4枚答案を書くことを優先すべきね。」

 

「そうですね...

問題文を読んで重要だと思った事実は、

 

〇給与所得該当性に働く事実

開発の進行スケジュールはAが決定

Aは開発の進捗状況を厳しく管理(遅れたら厳しく指導)

AやBらと共に甲社を訪問、Aらと一緒に意見聴取

Y社内で説明資料等を、同社のPC用いて作成

Y社内で連日の打合せを実施

 

〇給与所得非該当に働く事実

契約書に兼業禁止条項がない

Y社までは自車通勤

甲社では自前のタブレット使用

 

...こんな感じですね。給与所得該当性に使える事実が多く集まったので、結論は給与所得該当にしたいと思います。」

「いい感じだね!今挙げてくれた有利な事実は、そのまま設問1で書いた規範にあてはめていけばいいんだけど、問題は不利な事実だね。

兼業禁止条項がないことは、Dがスケジュール期間中に他の仕事をしてもお咎めなしということで、Y社の拘束が及ばないことを意味するんじゃないかな?」

「有利な事実でもあるように、スケジュールの管理はAによって厳格にされてますから、スケジュール上のタスクを放り出してDが別の受託された業務を行うことは事実上できないはずです。Y社の時間的な拘束は及んでいると思います。」

「いい感じだね!後の二つの事実については?」

「通勤時間は実質的な勤務時間ではありませんし、タブレットの使用もY社外での業務の便宜上許されているだけで、Y社の時間的場所的拘束を否定する重要な要素とは評価できません。」

「こんな感じで書いていけば、短い時間で説得的な論証になると思う!」

不利な事実にも反論する姿勢が大事なのか。

 

「最後に設問3にいきましょう。

設問3は、法人の収益の年度帰属の問題だけど、まず原則はどうだったかな?」

「法人の場合も、自然人と同様権利確定基準が原則です。根拠は、法人税法22条の2第1項ですね。」

法人税法改正で年度帰属に関する条文が新設されたから、22条の2を適示すればいいわね。本件だと「工事完成基準」と呼べばいいのかな。

で、この「工事完成基準」だけど、何か問題点はない?」

難しいな...

「ソフトウェアの開発の場合、開発が進むにつれて製品の経済的価値ができてきますから、収益の額は開発の進行度合いに従って計上されるべきだと思います。

ですが、工事完成基準の場合は、ソフトウェアが完成して引き渡した時点でソフトウェア全体の収益の額を計上することになりますから、実情にそぐわないことになる。

これが問題点ですか?」

「よくできました!

そこで、「特段の定め」として登場するのが法人税法64条1項なの。同項は、工事の進行度合いに応じて収益と費用を認識する工事進行基準を採用して収益を計上することを認めている。

工事完成基準と工事進行基準の関係、両基準に基づく収益の年度帰属をそれぞれ説明できれば設問3は及第点だと思う。」

 

 

ーーー

「ありがとうございましたー!」とレジカウンターの店員さんの声を背に、僕達は遅い夕食を済ませて店を出た。

茶店を出た(全部自腹で払った)のが夜の9時前で、それから彼女が「頭使ったらお腹空いてきちゃった」と言うので近くの鉄板居酒屋に入ってご飯を食べた。

現在、夜の11時過ぎ。終電は0時過ぎてからなので、今からでも余裕で豊中に帰ることができる。

 

「じゃ、そろそろ僕たちも帰りましょうか」

そう言って彼女の手を取ろうとしたが、逆に僕の右手をぐわっと掴み、そのまま前を向いてすたすた早歩きしてきた。

「えっ?」

そっちは改札とは逆方向だよ、と突っ込む暇もなく、彼女(と僕)は新北野の交差点を渡り、普段僕がよく利用する淀川図書館の方向まで無言で歩いていく。

あれ?確か図書館のある通りって....

 

 

数分後、彼女と僕は、所々煤で燻っている外壁と、虹色に放つ外灯とイルミネーションが何ともいえない雰囲気を周囲に与えている建物に到着した。看板には「ご休憩 平日:5500円~ 土日祝:6050円~ サービスタイム有」とご丁寧に料金設定が。

 

 

「あっ、あの、これラブh」

「もう今日は遅いし、今日はここで休憩しましょ!!」

茶店にいた時と同じ位、いやそれ以上に彼女は赤面して、僕の手を握った手を上下にブンブン振り回して提案する。

「・・・・・」

「・・・・・」

沈黙。

「それとも....」

「!?」

「また私に、同じこと言わせる気?///」

 

頭の中で何かが切れた気がした。もうどうにでもなれ。

僕は彼女の右手を繋いで、そのまま夜も眠らない牙城に進軍を開始したのだった。

 

 

翌朝揃って講義(教授会)に遅刻してこっぴどく叱られたのだが、それはまた別のお話である。

 

(解答例)

設問1
1 源泉徴収制度の概要
 源泉徴収制度とは、給与や利子等一定の所得を支払う者が、支払の際に当該所得から租税を差し引いて国に納付する制度をいう(所得税法(以下「所法」と略する)181条以下)。租税の徴収及び納付義務を支払者に負担させることで、迅速かつ確実な租税の徴収を確保すると共に、徴収手続の簡素化を実現することに意義がある。
2 Y社による源泉徴収の必要性
(1) BらはY社の従業員として同社との間で雇用契約民法623条)を締結しており、同社から毎月支払われる給与は所法28条1項の「給与等」に該当する。
 よって、Y社はBらに対して金員を支払う際に、所法183条1項に基づき所得税源泉徴収する必要がある。
(2) 次に、Y社はAに対して金員すなわち経営業務を内容とする準委任契約(民法656条)に基づく取締役報酬を支払う際に、所得税源泉徴収する必要はあるか。

 上記報酬は給与所得ではなく事業所得(所法27条1項)に該当する可能性があるところ、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性及び有償性を有し、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう(弁護士顧問料事件参照)。そして、給与所得と事業所得との区別は、支給者との関係において何らかの空間的及び時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかにより判断されるべきである。

 Aの上記業務は、決められた時間にY社において取締役会への出席や同社代表者として他の事業者との会合に出席する等の業務を行うことが想定されており、Y社との関係で一定の空間的及び時間的な拘束を受けている。そして、Aが受け取る取締役報酬は、かかる業務遂行の対価といえる。そのため、Aの報酬は事業所得に該当せず、所法28条1項の「給与等」として給与所得に該当する。
 よって、Y社は、Aに対して金員を支払う際に所得税源泉徴収する必要がある。
(3) では、弁護士Cに対して顧問料を支払う際所得税源泉徴収する必要はあるか。Aと同様の基準により検討する。

 Cは自らY社に来社せず、法律事務所を訪問したAから法律相談を受けており顧問先対応のために空間的拘束をY社から受けていない。またCが受け取る顧問料は顧問契約が継続する限り発生するものであり、法律相談の対価とはいえない。そのため、顧問料は給与所得ではなく事業所得に該当する。
 そして、顧問料が事業所得に該当する以上、Y社は所法183条1項ではなく同法204条1項2号に基づき、所得税源泉徴収する必要がある。
設問2
1 Y社が業務委託契約に基づいてDに対して支払う金員は、給与所得に該当するか。前述した給与所得と事業所得の区別の基準に従って検討する。
2(1) Y社とDとの間に締結されている業務委託契約雇用契約と法的性質を異にするが、前述の通り雇用契約であることは給与所得該当性の必須の要件ではない。
 同契約においては、DはY社代表取締役のAによってソフトウェア開発のためのスケジュールを決められ、進捗状況が厳しく管理される等同社の時間的拘束を受けていた。そして、スケジュール期間は、DはAの指示によってBらのY社従業員と共に、ソフトウェア開発の注文主である甲社を訪問し社内の意見聴取及び調整を行ったり、Y社内で説明資料及び仕様の内容を取りまとめる書面を作成したりしていた。このように、DはAの指示の下で、実質的にはY社の従業員と同じ立場でソフトウェア開発に必要な業務を行っていたのであり、場所的拘束も受けて継続的に労務を提供していたといえる。
 そして、前記の業務委託契約によれば、Dに対する金員はY社の作業が終了して初めてDに支払われるものであった以上、上記労務との対価性も認められる。
(2) 確かに上記業務委託契約には兼業禁止条項がなく、スケジュール期間中もDは「ワークスD」として他の事業者から業務委託を受けることは可能であった。しかし、前述の通りソフトウェア開発のスケジュールはAによって厳格に管理されておりDの作業が遅れるとAが厳しく指導することもあるため、DがY社への労務提供を放棄して他の業務を行うことは実質的に困難であった。
 またDは、甲社での作業の際Y社のパソコンではなく自前のタブレットを利用しており、作業方法についてY社の拘束を受けていない。しかし、甲社にはAも同行しておりDはAらと共に意見聴取等を行っていたのであるから、甲社においてもY社の代表者であるAの拘束を受けていたといえる。
 よって、かかる事情は給与所得該当性の判断に影響を及ぼさない。
3 以上より、Dに対して支払われる金員は、DがY社の指揮命令に服して提供した労務の対価といえ、給与所得に該当する。そして、Y社はこの所得に係る所得税源泉徴収する必要がある。
設問3
(1) 役務の提供に係る収益の額は、原則として、役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することになる(工事完成基準、法人税法22条の2第1項)。同基準によれば、完成したソフトウェアが甲社に引き渡されるのが平成28年2月になるため、X社の収益は引渡しの日の属する事業年度に帰属する。
 しかし、上記の考え方は、工事が進行するに従いXの利益も発生するという実態に必ずしも即していない。
(2) そこで、法人税法22条の2の「別段の定め」として、同法64条は、工事の請負に係る収益及び費用の額について政令で定める工事進行基準によって経理したときは、収益の額を同基準に従い益金の額に算入する取扱いを認めている。本件においては、同法64条2項を適用することによって、X社の収益は工事の信仰の度合いにより各事業年度に帰属する。
以上

 

ーーー

次回(平成26年第1問)→年末年始かも

いずみ寮に入寮した話

   

 

先々週、埼玉県和光市で実施される司法修習生考試(以下「二回試験」)を受験するためだけに、司法研修所敷地内にある「いずみ寮」と呼称される修習生寮?に入寮しました。

ネットに転がっているいずみ寮の情報はどれもコロナ禍以前のものであり

 *1、74期以降の修習生の入退寮の様子に関するものは無かったと思うので、76期以降の後輩向けに、守秘義務に反しない程度に(ここ重要)、紹介したいと思います。

ただし、研修所からアナウンスがある内容については原則割愛します。重複するので。

 

なお、二回試験の内容等については別の記事を参照ください(修習終了後掲載予定)。

 

 

1 司法研修所敷地について

司法研修所の敷地は埼玉県の和光市にあります。敷地自体は東京都の練馬区に接しています(口コミ評価2.8恥ずかしくないの)

東武東上線東京メトロ和光市駅が最寄りで(駅のすぐ近くにあるとは言ってない)、池袋駅から乗り換えて行く人が多いです。

 

 

駅から駅前通り・公園通りを抜け、公園をそのまま南に突っ切っていけば徒歩でも行けますが、30分弱かかるので運動に自信のある修習生兄貴姉貴以外は駅南口から出ているバスを使いましょう(本数多いし電子マネーも使える)。

 

ただ入寮日等、初めて駅から研修所に行く際は、どうやってバスで行けばいいか分からないと思います。

研修所からアナウンスがあると思いますが、バスで行く場合は「樹林公園」で降りて下さい。「司法研修所」で降りると、いずみ寮の入口から遠回りをすることになります。

「樹林公園」で降りた後は、そのまま坂を上り、信号のあるT字路を右に曲がり、そのまま十字路の信号の所は直進しましょう。そのまままっすぐ行くといずみ寮に一番近い入口(「北門」)に着きます。

この説明で分からない場合は、他の修習生っぽい人についていきましょう(私はそうしました)。

北門をくぐり、まっすぐ行くといずみ寮(地図上のテトリスっぽいギザギザの建物)に着きます。

 

司法研修所の中にはいずみ寮の他に、

・講義や起案、二回試験が実施される建物(本館西館)

・食堂等がある図書館棟

・裁判官用のひかり寮等があります。

 

2 いずみ寮について

いずみ寮は修習生用の寮ですが、男性用のA館と女性用のB館で分かれています。

A館B館は渡り廊下で繋がっていますが、互いの行き来は研修所から禁止のお達しがありました。

そのため修習生カップルは1階の入口前ロビーやいずみ寮の外でコソコソ話をしていました。性の悦びを知りやがって

 

寮の部屋は、ワンルームのユニットバスです。部屋にはベッドと電灯付の勉強机一式、エアコン、小型の冷蔵庫があります。

これ以外の物はありません。

Q 風呂にシャンプーリンス、ボディソープはありますか

Q トイレにトイレットペーパーはありますか

Q 部屋にハンガーはありますか

Q 何か部屋の中乾燥するんですけど、加湿器ってありますか

Q テレビはありますか

Q wi-fi環境はありますか

 

A

 

 

 

 

最低限、お風呂セットとトイレットペーパー、ハンガー、加湿器は入寮の際に持っていきましょう。

一応駅前のイトーヨーカドーで揃えることはできますが...

その他、各階にはトイレと洗濯機・乾燥機コーナー、冷蔵冷凍庫がある給湯室があります(私は冷凍庫に冷凍食品やアイスを突っ込んでました)。談話室もありますが、鍵がかけられていて入れませんでした。

 

実際に住んでみての感想ですが、「思ったよりは悪くない」感じです。

ホテルのシングルより広いですし、元々殺風景な部屋に住んでたのでシンプルなレイアウトも特に気になりませんでした。

隣の部屋の音もそこまで聞こえず(廊下に出ると音は響く)、加湿器を持ち込んでいたので室内の乾燥問題も解消できました。

何より楽しかったのが、Twitter経由で同期のフォロワーとオフ会ができたことです。

フォロワーの中の人に実際に会い、SNSでは話せない本音等を色々聞けたのはよかったと思います。

 

 

3 ごはん事情について

修習期間中のご飯については、

①研修所の食堂で食べる

②近くのコンビニかスーパーで調達のどっちかになると思います。

 

①ですが、食堂は事前に食券を購入して(当日も食券機で購入できる)、食券箱に食券を投入していくシステムです。メニューは、

・朝食(小鉢3個を選ぶ、ご飯味噌汁はセルフ(お代わり自由))500円

・昼定食、夜定食(おかずは日替わり、ご飯味噌汁はセルフ)600、700円

・カレー(カツカレー)(お皿の限度で盛り切り自由、お代わりはできない)500、600円

・おにぎりセット(起案の日限定、おにぎりと卵焼き等)500円です。

 

値段は高めですが、いずみ寮から徒歩5分なのが大きいです。

味も、定食は普通に美味しくカレーは旨いです(昔は不味かったそうですが、業者が変わって美味しくなったという噂)。

味は国立大学の学食に近いので、これがイケる人は食堂メシも楽しめると思います。

 

②ですが、研修所周辺にファミマが2軒ある他、公園通り沿いにベルクというスーパーがあります。ベルクは大きめのスーパーで、品揃えはかなりあります(自分も含め修習生もよく利用していました)。

研修所に一番近い飲食店は「とんでん」ですが、13.5万での生活を強いられている修習生には値段的にキツイので普段通いには厳しいです(飲み会には可)。

駅周辺まで行けば外食できるお店が結構あります。

 

私は、朝や起案前日の夜は食堂で食べ、起案の日の夜や土日の昼夜は駅前周辺で外食してました。

 

 

4.研修所周辺について

研修所は運動公園と隣接しており、公園には1kmと800mのランニングコースが整備されています。

ランニングしたい修習生兄貴姉貴は積極的に使いましょう。

 

 

研修所から徒歩10分の所に、「おふろの王様」というスーパー銭湯があります(決して大人のお風呂屋さんではない)

 

結構大きめの温泉施設で、起案終わりに行くのがおススメです。

 

今回は入寮期間が約1週間と短く中々外食ができませんでしたが、二郎系の「豚レンジャー」ととんかつ屋の「トンカツ揚ヤ 半人前」は美味しかったです。

tabelog.com

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駅前のイトーヨーカドーにはスーパー、100円ショップ、家電量販店が全て入っているので、入寮前の買い出しに重宝します。

 

 

5.まとめ

76期以降の方は72期までと同様、

導入で和光→分野別で全国へ→集合で和光→二回試験は和光(大阪)と何度もいずみ寮にお世話になることになり、引越等で大変になると思います。

入寮前に(期の近い)先輩の話をたくさん聞いて情報収集するのが良いかと思われます(これは修習全般に当てはまりますが)。

オタクくんが3級FP技能検定を受験した話

スレミオをすこれ

お久しぶりです。

二回試験まで2週間を切り、そろそろ白表紙*1を読みこむ作業をしなければと思いつつ「即日起案の成績悪くなかったしまあいけるやろ...」というマインドで結局殆ど何もしていないunknown39です。

 

とはいえ税法ガールを書く時間までは取れないので、それまでの場繋ぎとして今回は9月に受験したFP3級の試験について書きます。

 

 

ーーー

1.FP技能検定って何だよ(哲学)

日本FP協会は、ファイナンシャル・プランナー(以下「FP」)を「一人ひとりの将来の夢や目標に対して、お金の面で様々な悩みをサポートし、その解決策をアドバイスする専門家」と定義しています。*2

 

 

生活でお金がかかる場面(健康保険・生命損害保険・金融商品・税金・不動産の処分・相続贈与等)で法令や制度に照らして適切に助言を行う専門家と捉えて貰えれば結構です(勿論、隣接士業の業務を行うことはできない)。

FP技能検定はFPを名乗ることができることを認めて貰うための国家試験で、毎年FP協会と金融財政事情研究会(以下「きんざい」)が実施しています。

今回受験したのはFP協会主催の試験です。

 

団体・級によって出題範囲は異なりますが、主に

・ライフプランニングと資産計画

リスク管理

・金融資産運用

・タックスプランニング

・不動産

・相続事業承継

の6分野から出題されます。

 

試験は、単純な知識問題の学科試験と事例方式の実技試験の2つで構成され(3級の場合両方マークシート方式)、両方の試験に合格して初めて当該級の合格と認定されます(合格ラインは6割)。

合格率は、FP協会主催の試験だと例年83~89%で、フツーに勉強していれば合格できるコスパのいい試験になっています合格率99.9%の二回試験より難しいじゃん

 

 

2 なぜ試験を受けることになったのか

内定先のボス弁「弁護士として仕事するなら、簿記・FP・ビジネス会計検定は取っておいた方がいいよ」

わたくし「おかのした」

 

              終
            制作・著作
            ━━━━━
             ⓃⒽⓀ

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・実はこのFP、単体ではほとんど役に立たないものの弁護士業務に使える知識を一挙に学習できる資格とされています。

タックスプランニングで扱う所得税は、離婚事件で財産分与をする際に問題になります(譲渡所得課税)し、相続では相続人は相続税贈与税が負担することになります。個人破産では破産者加入の保険や所有する金融資産の処理が必要になります。

FPの有用性は、弁護士漫画でおなじみ中村真先生著『新版 若手法律家のための法律相談入門』(2022年、学陽書房)でも述べられています。

 

質問されることの多いトピック、問題になりやすい知識というのはある程度類型化できるのですが、これまであなたが法律家、駆け出しの法律家として学び、身につけてきたそうした法律知識は重要ではあるものの基礎的なものであり、そうした基礎的な知識を仮に「大通り」だとすると、その「脇道」に少し逸れたところにある細かい知識というものも存在します。(中略)

これらは、社労士や税理士、建築士などそれぞれの分野の専門職であれば当たり前に備えている知識であり、また我々法律家の仕事でも交通事故や破産、相続、建築紛争などの法律相談、案件処理の中で話題に上る頻度も高いものです。(中略)

ところが、こうした断片的でありながら法律家にとって重要な知識は、全てFP3級の試験の中で頻出論点として問われるため、FP3級の試験勉強を一通りこなす過程でこうした知識を無理なく身につけることができ、法律相談の対応スキルの厚みを増すことができるのです。(以上、同書籍22~23頁から引用)

 

3 試験対策

予備校に通うお金と時間は無かったので、今回も市販のテキストと問題集を使いました。

 

 

1冊目は、どこが重要なのか、どの点が試験で引っ掛けポイントとして出題されるのかが明確で分かりやすかったです。

2冊目は過去問集です。

 

上の6分野の内、

タックスプランニング→租税法選択なのでほぼ勉強済

不動産→宅建合格済みなのでだいたい勉強済

相続事業承継→相続部分は勉強済

なので、強くてニューゲーム状態で勉強を開始しましたが、それ以外の分野は殆ど知らない状態で知識を詰め込みました。

ライフプランニングは範囲がかなり広いのと、金融資産運用は馴染みが全くなかったのでかなり苦戦しました。

 

 

平日は忙しかったので土日に3~4時間勉強していましたが、1か月前からは放課後にコメダに籠って問題をガリガリ解いていました。

 

試験1週間前からは、市販の模試問題集を使い、時間を測ってセルフ模擬試験を一日一回しました。

この模試の教材には巻末に出題論点をまとめたチェックシートが付いており、試験場での見直しに役立ちました。

問題のレベルも本試験と同様だったと思います(学科は難しかったけど)。

 

 

4 試験当日

試験は9月・1月・5月の三回実施で、9月11日に受験しました。

都道府県庁所在地で試験が実施されているので、当日は転車で試験会場に到着。

 

午前:学科試験(120分)午後:実技試験(60分)という当日の試験日程ですが、学科試験は途中退出ができます。なので、60分で解答を終わらせて途中退出し、コメダに直行して昼飯・実技試験の模試の問題を解いていました。

 

 

当日の試験の難易度は、学科がやや難、実技が標準でした。

 

 

5 合格発表

24日の午前10時にFP協会のHPで合否を紹介することができました。勿論合格。

後日、結果通知書と合格証書が郵送されてきました。

 

 

両方ともほぼ8割取れてたのでこんなもんでしょう。

次は1月に2級を受験したいと思います。(おわったおわり)

簿記検定試験3級を受験した話

 

お久しぶりです。

海の日までには税法ガールの続きを書こうと思ってましたが、もうお盆の時期になってしまいました。早いですね。

相変わらず着手してないです。だが私は謝らない

 

以前マシュマロで簿記のことについて執筆希望が来てたので、今日は6月に受験した3級の試験について書きます。

 

 

1.簿記試験(3級)の概要

実は学部2回生の時に受験してましたが、その時は不合格でした。

現在はwebでの試験が導入された関係で、試験形式や試験時間が変わっています。

 

〇試験日程

毎年6月・11月・翌2月

*2022年度は6月12日・11月20日・2月26日

 

〇試験時間

1時間

 

〇試験形式

筆記又はオンライン

 

〇試験問題(概略)

第1問:取引の仕訳:45点(3点×15問)

第2問:帳簿・勘定記入、補助簿の選択、語句選択等:20点

第3問:試算表の作成:35点

 

〇合格点

70点(絶対評価

 

〇特記事項

電卓の持ち込み・使用可

問題文と解答欄が一つの冊子に纏められているため、試験終了後の持ち帰りは不可

計算用紙は配られないので、冊子の余白に仕訳や計算結果を記入する必要がある

 

2.試験対策

第1問の仕訳問題で満点を取れば残りの55点の中で25点を取るだけで済む。そのため、仕訳だけは確実に、かつスピーディーにできるよう問題演習を行いました。

第3問の試算表作成については、最終的な合計金額が借方と貸方で一致しなくても、途中までの金額の計算で部分点を稼ぐことができる(大体1つの計算につき2点から3点)ので、そこで荒稼ぎする作戦を取りました。

 

ただ今回使用したテキストと問題集は、前に税理士試験の予備校の講座を取った時におまけで付いてきたものなので、残念ながら紹介はできません。

書店で売ってる市販のものを使えばいいと思います。

 

勉強自体は4月からゆっくり始めましたが、試験1か月前からは流石に時間計って問題を解く必要があると思い、模擬問題集を購入して回しました。

 

 

↑の問題集を今回使いましたが、値段の割に問題の質も悪くなく、解説も必要最小限に纏まってて良かったです(ただ当日の問題はこれより2段くらい難しかった)。

 

3.試験当日の様子

6月12日に市内の商工会議所で受験してきました。

コロナの関係で受験者数は予め制限されていましたが、それでも受付は混雑していて並ぶ羽目になりました。

一番易しい3級とあってか、受験生の中には中学生高校生が多くいました。

ガキが...舐めてると潰すぞ

 

受付で検温と消毒を済ませ、自分の席に着席して筆記道具等を準備しましたが、簿記の試験では時計は腕時計オンリーで、置時計は使えませんでした。

 

司法試験ではフツーに置時計使ってたんやが

 

 

その後は注意事項の説明と問題冊子の配布があり、朝9時から試験開始...と思いきや9時になっても始まらず結局10分過ぎくらいに始まりました。

情けない時間管理...恥ずかしくないの?

 

試験問題の内容はもう覚えてないですが、

第1問→まあ普通

第2問→激むず

第3問→まあ普通

でした。

 

4.結果

 

ということで、簿記3級合格してました。やったぜ。

問2が爆死したものの、問1でほぼ満点、問3で部分点をもぎ取って逃げ切りました。

因みに商工会議所毎の合格率は5割弱でした。意外と低い。

 

今後ですが、11月の試験で何とか2級まで取ってしまいたいです。

9月のFP試験との兼ね合いもありますが....

 

 

 

ということで、今回の記事はこれにておわったおわり(終)

【税法ガールⅡ】第1話 ルーキー(平成27年第1問)

注意事項等については税法ガール無印と同じです。

lawschoolreport.hatenablog.com

 

黒歴史第二章の始まり始まりです。

よろしくどうぞ。

 

ーーー

「....施設の紹介はこれで以上です。今日は一日お疲れ様でした!」

「「「「ありがとうございました」」」」

ローライブラリー4のドアを閉め、後ろを振り返って僕は締めの挨拶をした。

律儀に声を合わせてお礼を述べてくれたのは、来年度のロースクール新入生だ。

最初に彼らと顔を合わせた時は、緊張していたのか神妙な顔持ちだったものの、今はお互いそれなりに打ち解けて軽く雑談もできるようになった。

「それでは皆さん、4月からまたお会いしましょう」

 

冬の季節を過ぎて、3月に入り構内の桜並木も蕾が芽吹き始めている。

今日は我がN大ロースクールの入学前オリエンテーションが開催され、今年入学してくる学生に対して法科大学院での過ごし方や学習方法、進路についての説明や相談会が実施された。

オリエンテーションの最後は在学生によるロースクールの校舎の紹介ということで、新3年生が入学予定者数人を連れて施設を紹介したり、質疑応答を受けたりしていた。先輩と関わる機会がもっと欲しいという要望に応えて、今回から導入されたらしい。学生委員会の有志が春休み中に集まり、3年生一人に対して入学予定者五人という組み合わせで班を作り、30分で一周するという段取りだ。

合間合間で新入生同士の交流ができるよう、基本的に男性3人女性2人の組を作っていたのだが、なぜか僕の班だけ男性が4人で女性が1人だけだった。こういう時は女性の先輩が付けば安心...という所だが、残念ながら今日集まった3年生は男だけ。

新入生の男4人も元々同じ大学の同期らしく、学部時代から4人でロー入試や予備試験の勉強をやっていたそうだ。

『今年こそは、全員短答合格して論文行くんすよ!』

『それはいいね。2年の前期は忙しいけど、上手く授業をやりくりすれば短答対策の時間は取れると思うよ』

『先輩あざす!!ところで、君は予備試験って受けたことある?』

初対面の人にいきなり試験のことを振るのか...と内心辟易としつつ、僕は唯一の女性の方へ視線を移した。彼女は少し藍色が入った黒のショートカットで、水色の眼鏡を掛けていた。

彼女は急に話し掛けられ委縮したのか、小声で絞り出すように呟いた。

『えっと...その....』

『ん?』

『私、一応去年受験して合格してまして.......ごめんなさい』

瞬間、某スタンドバトル漫画の如く、空間が凍てつき世界が静止する。

彼女に質問した1人は口をあんぐり開けて驚愕の表情を浮かべ、後の3人も表情が死んでいた。

「・・・」

僕はというと、じゃあ何でわざわざロー受けたの?とか流石に初対面の女性に対して尋ねることもできず、無言で愛想笑いをするしかなかった。結局、自己紹介の場面はそのまま流れてしまった。

 

その後は4人が僕の後ろにピタッとついていき、その少し後ろを彼女が着いていくという形で校舎の見学を行った。4人組は自己紹介以降彼女に話しかけることはなかった。

彼らの手前で彼女だけを贔屓するわけにもいかなかったが、かといって無下に扱うこともできず、合間合間で授業や院生の生活について色々話を振ってみた。が、彼女も4人の手前もあるのか、はたまた僕のコミュニケーション能力が致命的に無いのか、二言三言で終わってしまった。

 

流石に申し訳ないことをしたと思い、終わったら個別に相談に乗ろうと考えつつ、帰宅する4人に手を振り終わるのと同時に、

「あの...少しいいですか?」

張本人が横から話し掛けてきた。

 

ーーー

「今日は本当に申し訳ありませんでした!!」

いつも自主ゼミに利用しているセミナー室の鍵を事務員の方から借りて入室し、お互い椅子に掛けて開口一番、僕は彼女に謝罪をした。

「いえ...私別に気にしてませんから」

「僕があの時フォローすべきだったんだ...大学院に進学する人にも色々事情があるって」

「学部で予備試験に合格したなら、普通はロースクールにわざわざ行かないですもんね...」

「とにかく、今回は僕が全面的に悪い。お詫びにできる限りのことはしてあげたいけど、今日はどうしたのかな?」

「あの、少し分からない問題があって...もしよろしかったら一緒に考えて頂けないですか?」

そう言って彼女は、僕にA4サイズのコピー用紙を差し出してきた。紙には文章が印刷されていて、余白のスペースにはシャーペンで構成らしきメモがびっしり書かれている。丸みのある筆跡からみて、おそらく彼女の字だろう。

 

 弁護士であるAは,平成20年4月1日,いわゆる企業内弁護士として,B株式会社(以下「B社」という。)に採用され,同日からB社の法務部長として勤務していた。採用時の契約においては,勤務期間は平成25年3月31日までの5年間とされ,この間,B社所定の給与規程に基づく給与の支払を受けるほか,5年間の勤務期間終了時には,退職金として1000万円の支払を受けるという約定であった。
 その後,Aは,平成25年4月1日から法律事務所を開設して個人で弁護士業務を営むことを計画し,同年1月以降,その準備を進めていたが,折から,B社においてはC株式会社(以下「C社」という。)との経営統合に向けた検討作業を開始することになったため,B社の社長は,Aに対し,同年4月以降も引き続き法務部長として勤務してほしい旨強く求めた。AとB社の話合いの結果,Aは,当初の契約において5年間の勤務期間終了時に支払うとされた1000万円(以下「本件約定金」という。)の支払を受けた上で,B社との間で,同月1日から平成26年3月31日までの1年間,B社の法務部長として勤務し,この間,B社所定の給与規程に基づく給与額の1.2倍に当たる給与の支払を受け,1年間の勤務期間終了時には退職金の支払は受けないという内容の契約を新たに締結し,B社の法務部長としての勤務を継続した。
 ところで,B社には,各事業年度において功績の特に顕著であった従業員に対し,300万円を上限として報奨金を支払うという報奨金制度がある。Aは,平成26年3月31日,B社を退職したが,その際,B社とC社の経営統合に関し,法務分野での功績が特に顕著であったとして,上記報奨金制度に基づき,200万円(以下「本件報奨金」という。)の支払を受けた。
以上の事案について,以下の設問に答えなさい。
〔設問〕
Aが支払を受けた本件約定金及び本件報奨金は,所得税法上,いかなる所得に分類されるか,関係する最高裁判例に言及した上,自説を述べなさい。

 

「まず形式面なんですけど、答案の書き方としては

①問題提起→②規範定立→③本件約定金と本件報奨金のあてはめ

とした方が別立てて論じるよりも行数を節約できると思いましたが、どうでしょうか?」

「形式面で~したらいい、とかは特に無いんだけど、要は答案を読む人、例えば教員や考査委員がストレスなく読むことができる文章になるよう構成する必要があると思うんだ。

僕だったら、最初に何を論じるのか明確にするために、見出しとして「本件約定金の所得分類」「本件報奨金の所得分類」と付けた上で、それぞれについて分けて論じるかな。本問で使う規範は両方同じだし、「本件約定金と同様の基準により検討する」って書いてやれば同じ規範を書く必要は無い。

それに、本問の配点は40点だから、答案の分量も3頁ぐらいになる。問題数が多い近年の過去問ならまだしも、本問で行数を気にする必要は無いと思う。」

「そういう考え方もあるんですね....先輩ありがとうございます!」

彼女の声色が明るくなった気がした。

それにしても、年下に慕われるのはいい気分である。

「内容面ですが、今回Aに支払われた約定金は退職金になりそうですから、退職所得(所法30条1項)に分類されるかまず検討すべきだと私は思いました。

ただ、Aは弁護士なので、弁護士顧問料事件【38】との関係から事業所得(所法27条1項)該当性を検討すべきか迷っています。ほら、設問にも最高裁判例に言及するよう指示がありますし...」

質問内容から、彼女は所得分類については一通り理解していると考えた。それなら説明しやすくて助かる。

「弁護士顧問料事件の事案はどうだったか覚えてる?」

「法律事務所を経営している原告が、顧問先の会社からの法律相談を受けて得た報酬が給与所得に分類されるとして確定申告をした...覚えているのはこれくらいです。」

「それだけ覚えているなら十分。本問では、AはB社の組織内弁護士、いわばインハウスローヤーだから、法律事務所を自ら経営している顧問料事件の原告とは大きく異なる。この時点で、事件の射程は本問に及ばないと考えてよい。

あと、試験対策的な観点からいえば、B社での勤務が「事業」に該当しないのは明らかだから、事業所得への分類を否定しても結局退職所得を検討することになる。

事業所得の分類否定を論じるのは、時間と行数の無駄遣いということにならないかな?」

「確かに、それなら退職所得をダイレクトに書いた方がよさそうですね...」

まあ、加点を狙って色々書きたい受験生の心理は分からないでもないが。

 

「そうすると、退職所得該当性を問題提起として書くことになります。規範とその理由付けは、10年退職金事件【40】を判旨を参考に書けばいいんですね。

次の質問ですが、「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」と「これらの性質を有する給与」は別々の規範ですか?」

「そう。所法30条1項の文言上、両者は「及び」で分けられている以上別の規範として解釈、あてはめをしないといけない。

租税法では条文解釈が重要とされているから、条文の文言を挙げていなかったり、両者を一緒くたにしてしまうと採点者に条文構造が理解できていないという印象を与えかねない。

論証としては、

①退職所得の趣旨

②「一時に受ける給与」の解釈

③「これらの性質を有する給与」の解釈(以上、規範定立)

④(以下あてはめ)「一時に受ける給与」のあてはめ

⑤「これらの性質を有する給与」のあてはめ

になるのかな。」

順番もひとそれぞれだが、規範定立とあてはめは明確に分ける必要がある。

「その方が私も書きやすいです!

本件約定金だと、(1)退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されることの要件が充足されないことになります。Aは受給後も1年はB社に勤務するので。」

「そうだね。」

「問題は、「これらの性質を有する給与」へのあてはめですよね...

確かに、勤務条件はお給料の増額や退職金支給なしといったように従来と変わっていますけど、法務部長として業務を行うという勤務内容は変わっていませんし、お給料も毎月受け取ることができます。B社内での地位は変わっていないので、退職したと評価できないと思うんですけど...」

「そこは、勤務条件の変化をどう捉えるかによるかな。3月31日で従来の雇用関係は終了したと評価できるし、勤務関係が著しく変化したとすることもできる。

事実を拾って詳細に論述できれば、結論はどっちでもいいと思う*1。」

「事実の評価が難しいですね~。帰ったらもう一回考えてみますっ!」

彼女、結構喋るタイプなんだな...人のことは言えないけど、人前だとどうしても委縮してしまうのか。

 

「本件報奨金も同じようにあてはめすることになるけど、これについては給与所得の結論が妥当かな。弁護士顧問料事件の枠組みを簡単に書いてあてはめれば答案としては十分だね。」

「はい!先輩のご指導で何とかなりました!今日は付き合って下さってありがとうございます!」

セミナー室の掛時計の短針は4時を指していた。

「それにしても、よく所得税法を勉強しているね。司法試験も租税法選択なの?」

「はい!選択科目にあまり時間を掛けられないですし、足切りが無い程度に点数がくればいいかなーと思いました。

ただ、今日先輩と一緒に勉強して、所得税法の面白さが少しわかった気がします。」

「それは良かった。僕も、久しぶりに知らない人と勉強できていい刺激になったよ。」

「ということは、いつも誰かと一緒にしてるんですか?」

「そ、そうだねえ...」

恋人とは言えない。

「む~~~。何か気になりますけど、そろそろ用事があるので今日は失礼します!

4月からも宜しくお願いしますね!」

「こちらこそ」

律儀にお礼をして、彼女は鞄を持ってドアの方へ歩こうとしたその時、

 

「わっ、言い忘れてました。」彼女はくるりとこちらを向いて、

 

「蒼と書いてアオイっていいます。

私、先輩に逢うためだけににわざわざロースクールに入学したんですっ!!」

 

(答案例)

本件約定金の所得分類
(1) 本件約定金は、AがB社の勤務を終了するときに退職金として支払をうけるものであったため、退職所得(所得税法(以下略)30条1項)に分類されるか。
(2) 退職所得が給与所得(28条1項)と区別され、課税上優遇されている(30条2項及び3項参照)されている趣旨は、退職所得が長期間の勤務に対する報償及び期間中の就労に対する対価の一部分という性質を有し、退職後の生活を保障することにある。かかる趣旨からすれば、30条1項の「退職により一時に受ける給与」に該当するためには、①退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること、②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること及び③一時金として支払われることの要件をみたす必要がある。
 また、同項の「これらの性質を有する給与」に該当するためには、形式的に①から③の要件をみたしていなくとも、要件の要求するところに適合し、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを必要とすると解すべきである(以上、10年退職金事件判決参照)。
(3)ア これを本件約定金についてみるに、同約定金は②B社への5年間の勤務に対して支払われるものであるから、少なくとも継続的な勤務に対する報償としての性質を有する。そして、同約定金は③5年間の勤務期間終了時に一度きり支払われるものであるから、一時金としての性質を有する。しかし、Aは同約定金受給後も1年間B社の法務部長として引き続き勤務するのであるから、勤務関係の終了という事実によって給付されない。
よって、要件①をみたさず、本件約定金は「退職により一時に受ける給与」に該当しない。
イ では、「これらの性質を有する給与」に該当するか。確かに、Aは本件約定金受給後もB社に勤務し給与の支払を受けるため、勤務関係の終了と同視できる事実関係の変更が生じたといえないと思える。しかし、Aは従来の1.2倍の給与を受給する一方、雇用期間の延長が認められず退職金の支払を受けられなくなっている。本件約定金受給後の勤務条件は従来の勤務条件と大きく異なっている以上、このような勤務関係の条件変更は平成25年3月31日での勤務関係の終了と同視できる。
 よって、本件約定金は要件①の要求する「これらの性質を有する給与」に該当する。
(4) 以上より、本件約定金は退職所得に分類される。
本件報奨金の所得分類
1(1) 本件報奨金はAがB社を退職した際に受給したものであるため、退職所得に分類されるか。本件約定金と同様に検討する。
(2) 本件報奨金は③法務分野でのAの功績に基づき、当該事業年度限りで支払われるものであるから、一時金としての性質を有する。しかし、同報奨金はあくまでAの退職ではなく勤務に対して支払われるものであり、雇用関係の終了によって支払われない。よって、要件①をみたさず、「退職により一時に支払われる給与」に該当しない。
 そして、本件報奨金受給はAの退職の事実に関係しない以上、要件①の要求するところに適合しない。同報奨金は「これらの性質を有する給与」に該当しない。
(3) よって、本件報奨金は退職所得に分類されない。
2 次に本件報奨金が給与所得に分類されるか検討する。28条1項の「給与」は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付であるところ(弁護士顧問料事件判決)、本件報奨金はAとの雇用契約に基づいて、法務部長として提供した労務の対価としてB社から受給された金員である。
 よって、本件報奨金は給与所得に分類される。
以上

 

ーーー

新ヒロイン登場です。

次回

 

lawschoolreport.hatenablog.com

 

 

*1:退職所得否定の筋で論述した答案については、辰巳法律研究所司法試験予備試験論文対策 1冊だけで租税法 改訂版』を参照