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【コロナ禍の労働問題】個人用メモ

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11月6日に開催されました、司法修習生フォーラム分科会「コロナ禍の労働問題」に参加した際に作成した手控えを、事務局の許可を得て公開します。

保存用に作成したので、一部実際の講演内容と異なる場合があります。

ご了承下さい。

 

 

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司法修習生フォーラム分科会「コロナ禍の労働問題」
講師:市橋耕太弁護士、植山先生(全国医師ユニオン)


1.事前レクチャー(修習生担当)
コロナ禍の問題:多種多様、今回は医療従事者の労働問題をピックアップ
現状の勤務医週勤務時間→週50~60時間が多い(23.6%)
厚労省の定める基準を超えて勤務する人は全体の80%以上
連続勤務を行う勤務医→32~36時間が一番多い
46%の病院が、看護職員の配置転換を行った 数が不足していると訴える病院は34.2%
指定病院における離職率>それ以外の病院における離職率
38000人の回答者の内、2割が差別を経験したと回答(中傷、入室、コミュニティ参加断り)

 

法律上の問題点:労働時間、賃金カット、配転命令権
時間については労基法32条(上限8時間、週40時間 ただし三六協定)
三六協定と特別条項―年720時間、月100時間未満等 ※過労死ライン
4割の医師が過労死ラインを超えて就業している事実
賃金について、契約締結に際し明示必要(労基法15条1項、規則5条1項及び4項)
明示後、賃金変更は簡単にできない
※合意に基づく変更(自由意思、客観性)、合意に基づかない(周知、合理性)
配置命令について、配置命令権の濫用(労基法3条5項)として無効となることはある 
ただし特段の事情(甘受すべき程度を著しく超える不利益)がなければ認められない
Ex.東亜ペイント事件最高裁判決

 


2.市原Bのプレゼンテーション
☆模擬法律相談(配置転換)
依頼者はシングルマザー、母と同居の看護師(一般病棟)
病院にコロナ患者専用のプレハブ病棟を設置、依頼者に配置転換命じる
母は慢性心不全、母や子の面倒を行うことができる者は依頼者以外にいない
依頼者は異動を拒みたい

まず就業規則による配置転換の根拠を確認(割愛)
また就業開始時に異動が予定されているかも確認(割愛)
病院側は、看護師の増員予定していない
対策:防護服の確保 手当:危険手当はない 期間:いつまでという期限がない
慢性心不全の患者は重症化リスク高い
労働組合:あるが、依頼者は未加入

対応すべきこと:①異動を拒否←業務命令違反を理由とする懲戒処分(解雇)の不利益
②異議をとどめた承諾(多い)
交渉がうまくいかない場合、法的地位の仮処分や労働審判を検討(迅速性あるのは前者)
見通し:配置転換命令が直ちに無効と判断される可能性は低い
コロナが落ち着いたら戻すor期間を区切るよう病院と交渉する必要 労働組合を通じた要求
(模擬法律相談ここまで)

 

無給医問題
無給医:主に大学病院において、診療行為を行いながらも無給or非常に低額な報酬しか支払われていない医師 大学院生、研修医に多い
2018年に無給医の存在がNHKで大きく報道→文科省が調査 払われていないと回答したのは全体の1割弱

 

無給医問題の背景:国家試験受験前に無資格無給で従事する「インターン制度」(戦後すぐ)
研修医の労働者性が曖昧→関西医科大学事件最高裁判決で労働者性肯定
しかし、無給だった人に訴求して給与を払うことは行われていない(違法性認識なし)

法的問題:①労基法24条1項違反
労働者性は論点となるー使用従属性が認められるか
病院側の反論:教育や研修の一環である、自己研鑽の機会→不払いに合理的な理由あり
再反論:従事はあくまで病院側の指示に基づく
労務管理の不十分
無給医には防護服が支給されない、労災申請が適切になされない

 

問題解決のために:
病院が医師を労働者として扱うこと、医師自身が労働者と認識すること
適正な労働条件が適用されるようにすること ※完全な無給は減っているものの…
当事者による活動や医療業界外からの圧力

 

3.医師の過重労働とコロナ禍(植山先生)
(1)新型コロナと医師労働
ベッド数は世界トップだが、医師数が先進国最低で看護師数も少ない
医療スタッフがいなければベッドがあっても治療できない(患者一人に対して二人の患者必要、通常の4倍のマンパワー
感染症の専門医も少ない、集中治療ベッドも少ない(ドイツの1/6)
もっとも、感染症の世界的流行は想定外とは言えない
医師の多くは兼務で診療に従事している(選任は4.7%、常勤は71%ほど)
そもそも契約書がない、残業代支払いがない、危険手当もない(これは看護にも共通)

 

(2)医師の過重労働
過労死ラインの2倍の勤務時間の医師が約1割
医師は交替制ではない→一度当直すると約15時間勤務、宿直許可の悪用
健康に不安を訴える医師が40%以上
完全休日を増やしてほしい→雑務を減らす、補助員増員、医師増員
年間80人ほどの医師が過労死(病死・自殺・交通事故)の指摘

 

(3)無給医問題
文科省は調査を行っているが、合理的理由があるかは各大学の判断→潜在的問題
30代の既婚者が無給となっている現状
研修研鑽となっていると評価する医師は少ない、むしろ研究時間が取れていないと答える
→医学研究の低下
解決の方法:労基署が大学に入る←入ることは少ない

 

(4)医療の安全・働き方改革
24時間の覚醒状態は、0.1%の血中アルコール濃度に匹敵する(0.03%で免停)
医療事故の原因が過労多忙と回答したのは81.3%とトップ
医師の働き方改革(年1860時間の時間外労働を認める)の問題点:憲法14条、18条、25条違反のおそれ
働き方改革においては、ワークライフバランスから健康確保に矮小化(代償措置に医学的根拠なし)
求められる働き方改革労基法順守、交代制勤務導入、計画的医師増員

 

(5)医師数抑制政策
本来、必要医師数は増大するべき(産業構造変化、高齢化による患者増加、健康意識の高まり)
しかし、政府は医師数を抑制する政策を講じてきた(医療費のデタラメ推計、世論操作)

 

(6)労基法違反放置と人権意識欠落
労基法放置―三六協定違反放置、宿直許可悪用、自己研鑽の拡大解釈(労基署は指導を行っていない)、均等待遇の無視、客観勤務時間管理が義務化されていない、残業代未払
医療界の構成―日本医師会・病院団体・医学部長・病院長会議・日本医学会連合会
いずれも執行部が開業医や経営者であるか、病院の立場を主張する団体
全国医師ユニオンは2009年にできたばかり(会員は100人強ほど)
教授に楯突くと博士号が取れないという問題
封建的縦社会、パワハラの常態化、教育段階からのマインドコントロール

法律上の応召義務(過重労働の回避は正当理由になる、医療機関が責任をもつべき)
主治医制度(国際的にはチームで患者に責任を持つことが当然となっている)

 

(7)看護労働について
過労死ラインを超える時間外労働は少ない(0.8%)、交替制による
しかし、自由時間は家事に追われる
また残業代不払いも多い

 

(8)医師の労働運動
戦後、労働組合の結成は医師が中心的役割を果たす(60年代は3割が加入)
70~90年代になると運動が衰退 
90年代の過労死裁判により、勤務医が労働者であるという法律解釈 医療界に衝撃

 


4.ディスカッション
テーマ「ワクチン接種強制の業務命令を拒否できるか」
〇拒否できる
接種は法律上の義務ではないー努力義務(予防接種法9条)
業務命令は違法―業務命令権の濫用 Ex.電電公社千代田丸事件

 

×拒否できない(拒否に対する措置は可能である)
接種しないことによる不利益は甚大―感染リスクの高さ、コロナ感染の疑い、医療機関に対する信用低下
接種による不利益は微小―ワクチン安全性は科学的に証明されている、生命の危険が伴うケースは少ない
考えられる措置:解雇△(合理的理由欠くか)、自宅待機命令、配置転換

 

植山意見:本人の承諾がなければ接種を命令してはいけない
ワクチンについて不明瞭な点がまだまだ多い→安全だと断定はできない
市橋意見:ワクチン強制は無理→接種しないことによる措置が問題
不利益処分はまず難しい、配置転換や自宅待機についてはケースバイケース
自宅待機の際給与を支払うべきかは別の問題

 

(感想)

医師や看護師等の医療従事者がコロナ対応によって過重労働に追い込まれている現状はニュースや時折TLに流れてくるツイートで知っていたものの、客観的な数値を見せられて何とも言えない気持ちになった。コロナ対応によって勤務時間が長時間に及んでいるというよりも、コロナによって医師等の長時間勤務が顕在化したというべきか。

専門職の勤務環境が全体として改善されていない問題は法曹(特に弁護士)と医師で共通しているが、前者は弁護士数が増大し競争が激化したことに起因するのに対し、後者は医師数が抑制され需要に供給が追い付かないことに起因している点で大きく異なっている。しかし、法科大学院制度の失敗を考えると、医学部の定員を増大させたり進級要件を緩和したりすることは得策でないと思われる。

労働組合に加入して組織として病院と交渉する、訴訟を起こして世論に訴えかけるという積極的な手段が是正のために必要であり、そこに弁護士が協同する意義は十分あると考える。

 

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次は技能実習生問題(11/20 14:00~)に参加予定です。

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