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ロースクールたより6月号(きれいなお姉さん~で学ぶ民事実務基礎)

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いません(断言)

 

こんにちは。

Twitter上の、「デートしてきました!」「彼女できました!」という法クラのツイートに日々枕を濡らしている、限界ぼっちチー牛ロースクール生のunknown39です。

 

ロースクールネタもいよいよ尽き、書こうと思っていたブロックチェーンと法律問題も難しくてよく分からなかったのでボツにし、いよいよ困っていました。

 

私事ですが先日、読み解く合格思考憲法民法『きれいなお姉さんに養われたくない男の子なんかいるの?』というライトノベル(以下本ラノベ)を購入しました。

 

※↓が本物です

 で、さっそく読み進めたところ、

「これは法律上問題がある行為ではないか?」

「主人公をどうやったら助けられるか?」

「というかお姉さんに養われるまでの過程ガバガバ過ぎるだろ」

 というこじらせロースクール生らしい疑問にぶち当たりました。そこで、今回は普段勉強している知識を活かして、弁護士になったつもりで主人公にまつわる法律問題の解決策を考えていきたいと思います。

 

あっ、今回の記事にきれいなお姉さん要素はありません。残念だったな!

 

※注意

ブログ主はロースクール生に過ぎませんので、これから説明する知識等に誤りが含まれていることがあるかと思われます。その際は、コメントやTwitter等で優しく(←ここものすごく重要)指摘してくださると助かります。

 

ーーー

Case.1 店長はアルバイトをクビにできるか?

 

事案

ラノベの主人公は、高校2年生の一ノ瀬瑛太君です。一ノ瀬君の家は父子家庭で、父親は戦場ジャーナリストとして世界各国を飛び回っています。一ノ瀬君は一人暮らしで、生活費を不定期の仕送り、及び自身のコンビニのアルバイトで賄っています。

 

ある日一ノ瀬君は、バイトの休憩時間に、コンビニの店長と共に父親が紛争地帯で行方不明になったことをニュースで知りました。以下が問題となる部分を引用したものです。

 店長は申し訳なさそうに声をかけてくる。

「悪いんだけど……今日でお仕事辞めてもらえるかな?」「え……?」

……辞める? え、ちょっと待って。

「それってクビってことですか……?」店長は小さく頷く。

「さすがに親権者のいない高校生を雇うわけにもいかないでしょ?」

「まっ、待ってください! 親権者がいないわけじゃなくて、行方不明なだけです! 今までも何度もこんなことありましたし、そのうちしれっと帰ってきますから!」

「じゃあ今までも親権者不在で働いていたの?」「そ、それは……」

(中略)

僕がここでお世話になることが、お店の迷惑になるっていることだ。

「仕事以外のことで何かあれば、力になるからさ……」

もう、なにを言ってもダメだろうなと思った。

「わかりました……今までお世話になりました」

「うん。お父さん、無事に帰ってくるといいね」

 

 引用元:柚本悠斗・小川淳『きれいなお姉さんに養われたくない男の子なんているの?』東京都・SBクリエイティブ株式会社、2019年

 

 

2.法的問題点

このように、一ノ瀬君は店長にクビを宣告され、その後私物の整理をしてしまっています。ですが、上記の店長の行為は法的に問題があります。

 

前提として、一ノ瀬君と店長との間には雇用契約が締結されています民法623条)。一ノ瀬君が労働者としてコンビニ業務の労働に従事し、使用者である店長が労働の対価として報酬、給与を支払うことになります。「アルバイト契約」という契約ではなく、一般的な正社員と同様に雇用契約が締結されます(※派遣労働はまた異なるが割愛)。

そして、私人間の法律関係は、私的自治の原則*1及びその一内容である契約自由の原則*2に基づいて構築されます

本件のように、契約当事者である店長が、他方当事者の一ノ瀬君に対し一方的に雇用契約を終了させること(=解雇)を行っても上記の原則に基づき許されることになります。

民法627条1項はいわゆる「解雇の自由」を規定したものとも言われています)

 

 ですが、解雇は勤労の権利(憲法27条1項)を著しく制約し、また労働者の生活基盤を失わせる行為です。そこで、労働者を解雇から保護するため特別法である労働法の規定が、使用者の解雇行為を制限しています。

その一つが、労働契約法16条です

 

労働契約法第16条:解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

同条は、判例*3上認められた解雇権濫用法理を条文化したものです。

(1)解雇に合理的な理由がないこと

(2)解雇が労働者との関係で社会通念上相当でないこと をみたす場合は、解雇が権利濫用として無効となります。

(1)の合理的な理由としては、

a:心身の状態による労務提供不能、勤務成績・勤務態度の不良や規律違反

b:企業経営上の必要があること(経営状態悪化のための人員削減)

c:ユニオンショップ協定に基づく解雇 が具体例として挙げられます。

 

本件においては、

(1)一ノ瀬君が労務を提供できないという事情は無い。店長が「一ノ瀬君は頑張ってくれたから、できるなら続けてほしいんだよ?」と評価している(※中略で飛ばした部分)ため勤務態度もおおむね良好であると考えられ、勤務成績・態度・規律違反について問題も無い

コンビニの経営が厳しく、人員削減の必要があるという事情は無い。ユニオンショップ協定を一ノ瀬君と店長は締結していない。したがって、合理的な理由は認められない

(2)後述する親権者の不在という事情を考慮しても、一ノ瀬君を解雇することがコンビニの経営にとってやむを得ない手段とまではいえない

以上から、店長の行為は解雇権の濫用として無効となるといえそうです。

 

 

3.想定される反論

これに対し店長は、

「本件では一ノ瀬君の合意の下で雇用契約を終了したのであるから、解雇ではなく合意解約だ!」

と反論することが想定されます。もし合意解約と評価されれば、労働契約法16条の規制は及ばないことになります。

 

解雇と合意解約の判断基準として、東京地裁平成27年3月21日判時2274号73頁は以下のように判示しています。

 

労働者にとって雇用契約は,生活の糧を稼ぐために締結する契約であり,かつ,社会生活の中でかなりの時間を費やすことになる契約関係であることからすれば,かかる雇用契約を解消するというのは,労働者にとって極めて重要な意思表示となる。したがって,かかる雇用契約の重要性に照らせば,単に口頭で合意解約の意思表示がなされたとしても,それだけで直ちに合意解約の意思表示がなされたと評価することには慎重にならざるを得ない特に労働者が書面による合意解約の意思表示を明示していない場合には,外形的にみて労働者が合意解約を前提とするかのような行動を取っていたとしても,労働者にかかる行動を取らざるを得ない特段の事情があれば,合意解約の意思表示と評価することはできないものと解するのが相当である。

 

このように、裁判所は口頭による合意解約の意思表示が認められるかについて慎重な態度を取っています。

 

本件において、一ノ瀬君は「わかりました」とアルバイトの終了に応じています。ですが、店長は書面によって合意解約の意思表示を行っていませんし、一ノ瀬君は店長の発言に対して反論しようとしています(結局言いくるめられていますが)。父親の不在を引き合いに出され、やむを得ず店長に従ったと事実評価することが自然です。

よって、本件では裁判例でいう「特段の事情」が存在し、店長による解雇と認められます。この反論は認められないでしょう。

 

 

次に店長は、

「親権者のいない、未成年者の一ノ瀬君の雇用を継続することは問題がある。このような問題を解消するために解雇を行うことは、社会通念上相当だ!」と反論することが想定されます。

 

ですが、この店長は一ノ瀬君を雇用する前に、身元確認のため父親に会っています。当然父親の職業も認識していることが考えられ、戦場ジャーナリストとして行方不明になる可能性も熟知した上で一ノ瀬君を雇用したはずです。そうだとすれば、父親が行方不明になることによって発生するリスクを店長は当然負っており、また負うべきといえます。

また、今回の父親の失踪と一ノ瀬君は無関係です。一ノ瀬君本人に雇用を継続できない事情が存在しない以上解雇の相当性を基礎づける事情と評価することはできないといえます。よって、この反論も認められないでしょう。

 

 

4.解決策

それでは、一ノ瀬君を助けるためにどのような手段が考えられるでしょうか。

 

まず、店長に対して解雇理由が記載された解雇理由証明書を請求し、交付を受けることが必要です。労働基準法22条1項は、使用者から退職証明書を請求された場合使用者は遅滞なく証明書を交付しなければならないことを規定します。

 

労働基準法第22条第1項:労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

 

この証明書は、解雇の事実を証明する証拠となるとともに、どう解雇を争うかの重要な資料となるからです。なお、解雇通知後も2年以内であれば請求が可能です(同法115条)

 

その上で、一ノ瀬君は(おそらく)今後もコンビニでアルバイトを続けることを希望しているため、

・店長(※フランチャイズ加盟店の経営者を兼ねていることを前提)に対する労働者の地位確認請求

がまず解決策として考えられます。最初は当事者(弁護士も付きますが)間で和解交渉を行い、和解できない場合は労働審判→労働訴訟という形になります。

また、店長の解雇は違法であるため、

・店長に対する不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、710条)

も解決策として考えられます。ただ、主張立証責任が原告側にあるので高校生の一ノ瀬君にとっては厳しいものがあります。

 

5.結論

以上から、クビを言い渡された一ノ瀬君としては、

・解雇に応じず、解雇理由証明書を店長に請求する

・証明書を持って弁護士に相談する

をすべきでしょう。

 

 

Case.2 マンションの大家(と管理会社)は家族の家財用具を持ち出せるか?

 

1.事案

店長にクビを宣告された一ノ瀬君は、失意のまま自宅であるマンションに戻りました。すると、一ノ瀬君の部屋から荷物を運び出す作業員の姿を目撃し、またマンションの大家さんに話しかけられました。以下が問題となる部分を引用したものです。

「お父さんが家賃を滞納していてね……差押えることになったから」

「家賃を滞納!? え? いつからですか?」「もう四月分ね……」

「四月分……」

知らなかった……生活費は僕の口座に不定期で振り込まれるけれど、家賃や光熱費については父さんの口座から自動引き落とし。まさかそんなことになっているなんて。

「でも、事前に通知とかしてもらわないと、そんなこと急に言われてもーーーー」

「お父さんには何度も電話をしたんだけど、連絡がつかなくてねぇ」

「そんな……」

「私としてはもう少し待とうと思ったんだけど、間に入ってもらっている管理会社さんもいるし、ほかの入居者さんの手前もあるから……本当に申し訳ないんだけど」

「と、とりあえず一ヵ月分ならすぐにお支払いしますので、何とかなりませんか?」

「ごめんね……もう決まったことだから……」

大家さんは穏やかに言いながらも、聞く耳は持たないといった感じだった。

引用元:柚本悠斗・小川淳、前記

 その後、一ノ瀬君は結局最低限の荷物をまとめて、マンションから出ていくことになりました。なお、直後に例の「きれいなお姉さん」に拾われることになります。裏山死刑

 

2.法的問題点

まず事実の整理ですが、問題となるのはマンションの賃貸借契約の解除(民法601条、542条1項5号)です。

 

本件では海外出張中の父親・マンション管理会社というクソめんどくさい事情が絡んでいるので、契約当事者をまず確定する必要があります。

借主は、占有者である一ノ瀬君が高校生であること・賃料負担者が父親であることから一ノ瀬君の父親とみなします。貸主については、大家が管理会社に賃貸業務を委託していますが委託により賃貸人の地位までは移転しないため大家となります。

一ノ瀬君は契約当事者ではありませんが、賃借物の占有権原を有し(大家もそれを認識している)、契約が終了しない限りマンションの一室を占有することができます。

 

大家は、父親の賃料支払債務の履行遅滞民法412条1項)を理由に契約解除→所有権に基づく返還請求としての建物明渡請求を主張していると考えられます。

なお、542条1項5号該当性として信頼関係破壊の法理の適用が問題となりますが、めんどくさくなったのでおそらく該当するので割愛します。以下、解除事由が存在することを前提に説明します。

 

そして、解除をするためには当事者の一方による解除の意思表示(民法540条1項)が必要です。

 

民法第540条第1項:契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。

 

大家は、一ノ瀬君の父親に何度も電話をしたが、連絡がつかないと言っています。ですが、契約を解除するためには契約解除の意思表示が父親に到達しなければなりません(同法97条1項)

大家が公示による意思表示の方法(同法98条1項及び3項)を行っているなら別ですが、本件においては契約の意思表示が父親に到達していないと評価されると思います。

よって、本件でマンションの契約解除の効果は生じておらず一ノ瀬君は、解除の効果が生じるまで占有権原を有することになります。これは仮に部屋の中の財産が差押えられていても同様です

 

3.想定される反論

これに対して大家(と管理会社)は、

「賃借人である父親の財産が差押えられた以上契約は解除となるはずだ!」と反論することが考えられます。

 

ですが、差押を理由とする契約解除の特約は旧借家法6条(借地借家法9条)に反し無効であるのが判例法理です*4

また、解除の意思表示が必要なのは同様であるため、いずれにせよ反論は認められないでしょう。

 

また大家等は、

「父親とその息子の家財用具を持ち出して復旧することは、自力救済として許されるはずだ!」と反論することが考えられます。

 

法は、権利者であっても国家の定めた手続をせずに、自ら実力を行使して権利を救済することは禁止されるという自力救済禁止の原則を取っています。賃貸借契約においても、賃貸人等が勝手に賃借人及び占有者の物を引き払うことはできません。そのような行為を認める特約があったとしても、公序良俗民法90条)に反し無効となります。

自力救済が例外的に認められる場合として、最判昭和40年12月7日民集19巻9号2101頁は以下の通り判示していますが、かなり限定しています。

 

私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。

 

本件では、大家は民法98条に従って適法に賃貸借契約を解除できます。一ノ瀬君の占有によりマンションの所有権が著しく侵害されているという事情はありません。そして、大家等による引払いを許せば、一ノ瀬君は住居を失い通学ひいては生活することが著しく困難になります。「きれいなお姉さん」に拾われることはこの時点では確定していませんし・・・

よって、本件では特別の事情が認められず、自力救済は許されません。

 

4.解決策(というより結論)

一ノ瀬君にはマンションの一室の占有権原が(今のところ)認められるので、直ちに荷物をまとめて退去する必要はありません。

ただ、遅かれ早かれマンションを退去することになるため、区市役所や高校に相談すべきでしょう。単身世帯として生活保護の受給申請をすることも考えられます。

 

「これだ!」という結論が出せなかったので、何かアイディアある方はコメントしてみてください(他力本願寺)。

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ーーーー

今月号の内容は以上になります。最後に、

 

皆も『きれいなお姉さんに養われたくない男の子なんているの?』を読もう。

これだけははっきりと真実を伝えたかった。

 

 (お知らせ)

7月号は、期末試験直前期ですのでお休み致します。

8月号は、予備試験短答式試験終了後に更新致します。

 

 

 *参考文献等

潮見佳男『債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得』(新世社、2017年、第3版)229頁以下

小畑史子ほか『労働法』【竹内(奥野)寿】(有斐閣、2019年、第3版)166頁以下

我妻榮ほか『我妻・友泉コンメンタール民法』(日本評論社、2019年、第6版)1281頁以下

解雇なのか合意解約なのか

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201905178043.html

雇っているのは誰? フランチャイズという仕組み

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO38897470T11C18A2000000/

解雇理由は書面で通知する必要がありますか?

https://www.fukuoka-roumu.jp/qa/kaiko/qa4_2/

地位確認請求 訴訟・労働審判で問う不当解雇の「正当性」

https://zangyohiroba.com/unfair-dismissal/status-confirmation-request.html#i-2

賃貸物件での管理会社と大家の違い

https://e-dge.life/post-2031/

賃借人の破産や差押によって解除する特約は無効である

https://www.mc-law.jp/fudousan/20947/

自力救済の禁止

https://www.token.co.jp/estate/column/apart-management/06/

 

*1:私人の法律関係は、その自由な意思に基づいてなされるべきだという考え方

*2:契約は、公の秩序や強行法規に反しない限り、当事者が自由に締結できるとする原則

*3:日本食塩製造事件、最判昭和50年4月25日民集29巻4号456頁

*4:最判昭和43年11月21日民集22巻12号2726頁